足立朝日

スイス・フランス菓子研究所主宰 相原 一吉さん (59歳)

掲載:2011年12月5日号
千住中居町在住

師から受け継いだ欧州の家庭菓子の味


 口の中に広がるふわりと爽(さわ)やかな甘さは、素朴で上品。「パウンドケーキとは、こんなにおいしいものだったのか」と、フランス菓子の奥深さに驚かされる。
 「甘さは控えてないんですよ。バター、卵、砂糖、小麦粉の量は全部同じ」。相原さんの口調は、そのお菓子同様に優しい。4つの材料の量は1ポンド(パウンド)ずつ。仏語では「カトル(4つ)カール(4分の1)」というケーキ名だそうだ。「配合がそのまま名前になっていて、面白いでしょ」。豊富な知識が、お菓子作りの幅を広げる。
 相原さんが教えるのは、家庭でできるヨーロッパ菓子。材料も道具も身近なものを使い、プロの技にこだわらず工夫された手順は、目からウロコのものが多い。長年の研究による数々の独自のレシピは、失敗なくおいしいお菓子が作れると幅広く支持されている。
 主宰する研究所の他、製菓学校などの講師も務め、本も多数執筆。中でも「お菓子作りのなぜ?がわかる本」(文化出版局)は評判で、01年の初版から23版を重ねる。
 最初から料理の世界を目指していたのではない。生まれは千住の町工場。子どもの頃から、時々ちょっとしたおやつを作るなど料理好きではあった。大学浪人の1年間を有効に使おうと、香川栄養専門学校に入学。日本でのヨーロッパ家庭菓子の第一人者、宮川敏子氏に師事し、この道に。仏留学を経て、宮川氏のお菓子教室「スイス・フランス菓子研究所」で助手として研鑽(けんさん)を積んでいたが、師が急逝。研究所を継いだ。
 尊敬する師から受け継いだものの一つに、「お菓子屋さんの真似はしない」というスタンスがある。売るための見栄えもコスト制限も必要ない家庭だからこそ、手間をかけ贅沢もできるという。見た目は華美ではないが、「いい材料だと単純でもおいしい」。作ったお菓子が証明している。
 毎年夏は1カ月の休暇をフランスで過ごし、数年前から目覚めた和装でフランス人の友人たちと交流する。互いの国の文化への愛情と尊敬が、相原さんのあたたかくて優しいレシピの、隠し味なのかもしれない。
★スイス・フランス菓子研究所=JR山手線駒込駅徒歩2分、TEL3824・3477