足立朝日

これが最後のキネマ Vol.4

掲載:2010年7月20日号
「ロストクライム(閃光)」
 それは電光石火の早業だった。忽然と消えた犯人は全くシッポを見せぬまま、事件は時効を迎えた。それは、正にロストクライム(閃光)。
 今から42年前の1968年(昭和43年)暮れに起きた3億円事件。その真相を読み解いた小説を、鬼才・伊藤俊也が映画化した。その「解答」は、正に驚きだが、「完全犯罪」と言われたこの事件の真相に迫る映像は息をもつかせない。
 画面は墨田川に浮かぶ絞殺死体の発見から始まる。一見したところ、ありふれた殺人事件のようだったが、「3億円事件」が大きく絡んでいた。よれよれのコートを身にまとった古参刑事(奥田瑛二)と、その後ろを歩く若手刑事(渡辺大)の二人が事件の裏に隠された驚くべき真実に迫っていくのだ。
 ある古めかしい2階建ての家。古参刑事はそれをじっと眺めていた。そして画面は、今の2階建てからやがて事件当時の42年前のセピア色に変わる。古参刑事はまだ駆け出しの頃、3億円事件の捜査員の一人だった。実はこの家、3億円事件の主犯格である学生・緒方純(奥村知史)とその家族の住まい。緒方純とは、あの白バイ姿のモンタージュ写真の本人だ。
 カメラは家の中に移り、父親と息子の喧嘩シーンとなる。事件の主犯格として逮捕された息子を引き取り、どうにも気持ちが治まらない父親・緒方耕三(夏八木勲)が無言で息子を殴る。息子は泣きながら抵抗する。しかし、父親の怒りは治まらず、殴り続ける……。このシーンに、監督の「狙い」が込められている。「権威」を凝縮した父親と、世のあらゆる「権威」に反抗していた息子の葛藤。「完全犯罪」が完成されていった裏側には、こうした真実が隠されていたことに、慄然とする。
 ちなみに伊藤俊也監督は「女囚さそり」シリーズを手掛けた。現在、角川系で上映中だ。(児島勉)