足立朝日

これが最後のキネマ Vol.5

掲載:2010年8月20日号
「借りぐらしのアリエッティ」
 今回、紹介するのは「借りぐらしのアリエッティ」。宮崎駿(はやお)が企画、脚本を手掛ける最新のジブリ作品だ。メアリー・ノートン作の「床下の小人たち」を下敷きに、舞台を1950年代のイギリスから現代に移した。アリエッティは小人の少女で父と母の3人暮らし。東京の郊外の旧家の床下に住んでいる。物語はこの少女と心臓病を持つ人間の少年の交流を軸に進む。
 私が一番ひかれたのは父親のポッド。家族の運命や娘のアリエッティの将来など、重要な局面に対して冷静な判断をしていく。例えば小人一家が食卓を囲むシーン。夕方になり、母親のホミリーとアリエッティがポッドを迎える。ポッドは毎日、家族の生活に必要な物を床の上から「借り」てくるのだ。借り出しのハンティング(狩り)のことである。小人一族にとって、暮らしに大切な水や火、食料品。そして石鹸やティッシュなどだ。
 実はこの夜、アリエッティが初めて「借り」に行くという重要な日。昼間、床上の人間の家で子供が増えたと、ポッドがその変化を家族に伝える。心配性のホミリーは危ないと反対するが、好奇心が強いアリエッティは「借り」にどうしても出たいと主張。ポッドは「(人間の)子供は普通、早く寝る」と結論を出し、自分との同伴を許す。アニメーションによるポッドの顔は無表情だが、男の精悍さを微妙に描いている。それと、アリエッティと少年の最後のシーンには強烈なメッセージがあり、泣けた。
 監督は、スタジオジブリで一番のアニメーターといわれる新人の米林宏昌。絵がすばらしい。フランスの歌手でハーブ奏者セシル・コルベルに特注した音楽が最高! それにしても、小人たちの「借りぐらし生活」をもっと見たかったなあ。
 現在、東宝系で上映中。  (児島勉)