足立朝日

VOL.97白石加代子の源氏物語

掲載:2010年9月5日号
光源氏の叶わなかった恋の物語

 女優・白石加代子が全身全霊を懸けて臨む「源氏物語」。瀬戸内寂聴によるビビッドな現代語訳を基に、言葉の魔術師である鴨下信一が台本構成と演出を担う。現代語訳に古文が混じる鴨下版源氏物語を、白石は観客の耳に心地よく流れるように語る。その日本語の美しさは絶品だ。 
 白石の「ひとり語り」には、「耳で楽しむ」だけではなく、「目で楽しむ」演出もふんだんに採り入れられている。舞台上には「数段の台」と、100以上の「手描きによる源氏絵の扇」。この台での白石の立ち姿や位置、目線、白足袋で歩む速度で、登場人物の思いや状況が表現される。黒子が動かす扇は次々と姿を変え、絢爛豪華な宮中での営みを彷彿とさせる。今回贈るのは「光源氏の叶わなかった恋の物語」を3話。
 「空蝉(うつせみ)」「朝顔」「玉鬘(たまかずら)」。これら切ない恋に爆笑エピソードを織り込んで、白石源氏は観客を魅了し、愛の世界へと導く。白石の源氏評は明解だ。
 「以前は、光源氏の好色さが嫌でした。この人は不良だって(笑)。けれど、お芝居のお稽古を重ねる中で、その思いは改まりました。恋愛によって培う人間性とか、豊かな包容力が当時の理念だったんですね。どの場面にも人間の悲しさや苦しみが滲み出ていて、胸を打たれます。今回は『空蝉・朝顔・玉鬘』という新作を上演致します。美貌と教養、高い位もあり、様々な女性と浮名を流した光源氏が、見事『ふられた』物語です。王朝絵巻の中に、好色な老女の源典侍(げんのないしのすけ)や、赤鼻が長く垂れた末摘花(すえつむはな)など敬遠されがちな女性が登場するのも今回の魅力です。笑いのツボたっぷりでお届けします」
 言葉のひとことにも妥協を許さない鴨下の演出を、ひたすら信じて自分の世界を創り出す白石のたおやかな感性が、10月にシアター1010の舞台に舞い降りる。たった一度の公演をお見逃しなく。
【日時】10月17日(日)午後2時開演
【場所】シアター1010
【料金】S席5800円(フレンズ会員5200円)、A席5300円(フレンズ会員4700円)。
【チケット】 TEL5244・1011