足立朝日

「アパートの鍵貸します」
　「映画を沢山見ると人間的な魅力がどんどん増します」――。今は亡き映画評論家の淀川長治氏が講演会などで常々、口にしていた言葉である。特に、寒いこの季節、心温まる恋愛物を見ると、気持ちも暖まり風邪などひきにくくなること請け合いだ。
　今回、紹介する「アパートの鍵貨します」はラブストーリーのお手本といわれるだけあって、冬の心の妙薬としてお勧めしたい。１９６０年製作のアメリカ映画で、同年のアカデミー賞にて、作品賞、監督賞など6部門受賞した傑作。
　この映画の主人公のバグスター、愛称バド（ジャック・レモン）は保険会社のさえない平社員だが、上役達の情事のため自分のアパートを貸している。彼はその後、上役達に気に入られ出世街道に乗る。しかし、上役達の一人の人事部長が、バドの意中の人であるフラン（シャーリー・マクレーン）を愛人として連れ込んだことを知り茫然とする。
　映画は、本当の恋愛とは何かを絶えず観客に問いながら展開する。中でも、興味深いのはフランが自分の過去を語る場面。自殺未遂をしたフランは、発見者で献身的に介抱するバドに対して、自分の失恋話を切々とする。しかし、バドの気持ちとしては以前から好きだったフランが包み隠さず過去を語ってくれたのは辛い反面、嬉しくもあった。問題は、フランの自殺未遂によってバドが愛情を注ぐ価値のある存在というのを再確認した点である。
　恋愛とは、本気で相手に愛情を貢ぐだけで、その見返りを求めない。別の言い方をすれば、恋愛とは無償の愛を提供できる相手を確認する行為ではなかろうか。その意味では監督のビリー・ワイルダーは唸らせるラストシーンを用意している。ＴＯＨＯ六本木ヒルズの「午前10時の映画祭」で1月１日（土）～1月７日（金）まで上映する。（児島勉）