足立朝日

VOL.101柏木 広樹

掲載:2011年1月5日号
1010の空間に広がる柏木ワールド

 映画「おくりびと」を観た読者は多いだろう。「第81回アカデミー賞外国語映画賞」始め各賞を総なめにした同作品には、なくてはならない人物がいる。チェロ演奏家の柏木広樹――主役を務めた本木雅弘にチェロの指導をし、久石譲作曲の心に染み入る美しい曲を実際に奏でたその人である。
 東京藝術大学在学中の1989年に、「G―CLEF」のメンバーとしてデビュー。現在は、クラシックの枠を超えて多方面で活躍中。ヴァイオリニスト・葉加瀬太郎の音楽監督・サウンドプロデューサーを歴任、国内外のアーティストに楽曲提供、CM/映像音楽への関わりなど、作編曲家/プロデューサーとしての評価と人気は絶大である。
 その柏木が、新春1月15日(土)にシアター1010で最新アルバム「COCORO-relation-」(ココロ~リレーション~)発売記念コンサートを開く。選りすぐりのアーティストと共に、柏木ワールドが展開する演奏は、会場に幸せを運ぶ。
 コンサート前後に、ぜひ聴いてほしいのは同CD。例えば、3曲目の「おかえり」。ジブリ映画「ゲド戦記」で透明な歌声を聴かせた手嶌葵(てしまあおい)のために、柏木が渾身の思いで創り上げた曲など11曲の珠玉のメロディが心を打つ。
 シアター1010の舞台に初めて立ち、「音が広がる空間で演奏者と観客が一体になれるイメージが湧いた」と柏木。演劇を得意とする構造をプラスに捉え、反響板設置よりもステージが持つ空間を最大限に生かすほうが、自分たちのやりたい音楽が無限に広がると考える。
 「ヘッドホンで聴く音楽」ではなく、柏木は「ぜひ生で音楽を聴いてほしい」と望む。広い空間で聴く曲はイマジネーションが広がるからだ。学校での音楽教育に於いても、作曲者や曲の偉大さを強調するのではなく、「音楽の持つ力や素晴らしさをコミュニケーションのツールとして伝えられれば、子どもたちにとって音楽は身近になり、自立した楽しみ方が出来るのではないか」と提案する。
 「子どもたちは『人間のアマチュア』。でも、子どもの『人を受け入れるキャパシティ』が小さくなっているように思う。今この時期に、人間として大切な『思いやり』などを大人が伝えなければいけない」。柏木にとって、その手段が愛溢れる「音楽」なのだ。
【上演日時】1月15日(土)午後5時開演 【料金】前売・一般5500円、学生4500円、当日はプラス500円。 【チケット】TEL5244・1011