足立朝日

これが最後のキネマVol.12

掲載:2011年3月20日号
「ディア・ハンター」
 今回、紹介するディア・ハンターは、ベトナム戦争を描いたアメリカ映画。1978年に公開され、翌年の第51回アカデミー賞の作品賞のほか、監督賞を獲得するなど、〝戦争の悲劇〟を描いた作品として注目される。
 物語はペンシルベニア州の田舎町で育ったマイケル(ロバート・デ・ニーロ)、ニック(クリストファー・ウォーケン)、スティーブン(ジョン・サヴェージ)の3人を中心に展開する。休日に鹿狩りを楽しむごく普通の若者で、そんな彼らもベトナム戦争に徴兵される。3人は戦場で偶然に再会し、べトコン(ベトナム民族解放戦線兵士)の捕虜となったが、賭けの対象としてロシアン・ルーレットを強要される。
 圧巻はこのロシアン・ルーレットのシーンだ。2人が1組になり、それぞれが自分のこめかみに拳銃を当てる。拳銃は手動式で実弾は1発しか入っていない。当然、弾が飛び出した人間が死に、そうでない者が生き残る。それを肝試しとばかりに2人の男が競い合う。
 幼馴染みの3人が強要されることになる。正に悲劇だ。子供の頃から、地元の野山を駆け巡り遊んだ。そんな仲間が今、ベトナムの戦場で絶体絶命のロシアン・ルーレットを強制されている。
 この先、一体どうなるのか――。
 映画は、べトコンを一方的に残虐に描き、アメリカ軍による残虐行為は極めて少なく扱っている。映画のテーマにおいても「社会問題としてのベトナム戦争」ではなく、戦争を経験した普通の若者たちの青春、友情、というトーンで描いている。このことでベトナム戦争を正当化する作品との意見も出た。監督のマイケル・チミノは、ラストシーンで、余計その辺りの批判を招いた。183分の長い作品だが、見ていただいてご自分のご判断を。
 TOHOシネマズ六本木ヒルズの「午前十時の映画祭」で4月9日(土)~4月15日(金)まで上映される。(児島勉)