足立朝日

VOL.108百物語 白石加代子

掲載:2011年8月5日号
池波・幸田作品を堪能する一夜を

 この9月、白石加代子の「百物語」がシアター1010で一夜限りの上演を迎える。今回の「第二十八夜」で語られるのは、池波正太郎「剣客商売/天魔」と幸田露伴「幻談」。
 前者は、池波の没後20年を経て、未だに人気が衰えない「剣客商売」シリーズの中で、特に怪談めいた不気味さをたたえた一品。音もなく秋山小兵衛の前に現れた異形の笹目千代太郎。奇声を発しながら非情の魔剣は次々と道場を襲い、相手を一撃のもとに殺していく。それを迎え撃つ秋山父子。勝負の行方は……?
 白石は言う。「この千代太郎は、生まれつき身体が矮小と原作に書かれていますので、私も矮小な千代太郎を体験し、自らの身体で表現してお客様に見て頂くことで、聴覚だけでなく視覚でもお楽しみ頂けたらと考えています。登場人物たちが持つそれぞれの個性を私ひとりで演じ分ける訳ですが、物語の中心の秋山小兵衛という人物は、重厚でふくよかな性格なので、特に苦心しております」
 後者は、じんわりと恐怖がつのる一品。釣り人と船頭が、溺死者が握り締めた竿を頂戴して帰る。その竿を使うと次々と魚が釣れるが、溺死者を見た同じ場所で、細い棒が浮んでは消えている。辺りは急速に闇に包まれて……。
 白石はさらに続ける。「この作品は、露伴の紡ぐ言葉の力強さが最大の魅力で、江戸弁の豊かさがおおらかに表現されています。でも言葉だけに捕らわれないよう、衣裳に工夫をしたり、釣り人の仕草をリアルに表現できるよう心がけています。スピード重視の現代とは違い、『江戸』という時代をうまく表現出来ればと考えています。例えば何か恐ろしい局面に出会っても、当時はどこか余裕があり、大らかな気持ちで臨んでいたのではないかと思うんですね。その気持ちの糊しろのようなものを出せたらと思っています」
 どの回にも妥協を許さない白石は、「怖い話」を常に根幹に置きながら、コメディやロマンスなどの要素を加える努力を忘れない。「どの作品も怖さと同時に、ひとつの物語としてどれだけ奥行きを持たせられるか、ご覧になって下さるお客様の想像力をどれだけ駆り立てることができるかを意識して毎回臨んでいます。せわしない現代から時空を超えて、江戸情緒溢れる風情をたっぷりとお楽しみ頂ければと思っております」
【上演日時】9月11日(日)午後5時半【料金】4800円。
フレンズ会員10%引【チケット】TEL5244・1011。