足立朝日

歌詞はなくても心で伝わる音楽を 足立区在住のトランペット奏者 山崎千裕さん

掲載:2011年10月5日号
 静けさの深まる秋の夜は、じっくりと音楽を楽しみたい。自分の中に眠る、新しい感性に出会えるチャンスかもしれない。多くの演奏家が住んでいる足立区。数少ない女性トランペット奏者として活躍する山崎千裕さん(28)は、世界に向けて羽ばたき始めている。

 天空劇場に今年2月、トランペットの澄んだ音が響いた。プロやプロを目指しているアーティストに同劇場を無料で貸し出すユニークな試み、あだちエンターテインメントチャレンジャー支援事業(通称えんチャレ)の登録証授与式でのこと。
 山崎さんは第1期登録者の1人として、演奏を披露した。曲は「アメイジング・グレイス」と区歌などを織り交ぜた即興。伸びのある豊かな音色の「わがまち足立」は、区関係者たちに思わず笑みを浮かばせた。
 登録は、ドラム、ベース、キーボードの3人によるROUTE14band(ルートフォーティーンバンド)と結成した、山崎千裕+ROUTE14band(Y+R)。「バンドを代表して出席したので、急にソロでやることになって、何を吹けばいいかわからなくて」と謙遜するが、その笑顔は自身の奏でる音と同様に伸びやかで気負いがない。
ブラス女子たちの夢に
 トランペットとの出会いは、伊興中吹奏楽部。フルート志望だったが、当時は小柄で小指が届かず変更。「ファンファーレのように明るく強いイメージだったが、歌うような深い表現ができる」ことを知った。宇野浩之教諭の指導の下、全国大会にも出場した。
 最初からプロを目指していたわけではない。芸大付属音楽高校に進んだのも、「部活が大好きすぎて、続けられるところを選んだ」。情熱のまま突っ走った結果、東京芸術大学在学中の仕事につながった。
 華奢(きゃしゃ)な体での演奏は大変そうに思えるが、「肺活量は関係なく、肺に入った空気をどう使うかが重要」。女性だからとハンディを感じたことはないという。「吹奏楽部の女の子たちの、プロへの道の1つの希望になれたらうれしい」
初の海外ツアー成功
 ソロでテレビ番組やCMにも出演。映画「のだめカンタービレ」で、Sオケの一員として一瞬だがスクリーンにも登場した。ミュージカル「ミスサイゴン」にオーケストラ参加するなど、活動は幅広い。女性11人の東京ブラススタイル(anna名義)の一員でもある。
 Y+Rは、「歌えるインストゥルメンタル」をテーマに、ジャズ、フュージョン、クラシック、ロックなど多様なジャンルをミックスした新しい独自のサウンドが持ち味。
 今年3月にはロサンゼルスツアーを決行、初の海外遠征を成功させた。滞在中に次々に出演依頼があり、連日ライブ漬けに。来年のシアトル公演もそこで決まった。震災直後で、「大丈夫、祈ってる!」と励ましてくれる人もいた。「歌詞がない音楽なので、音楽は心で伝わる! と信じてきた」が、海外での反応は想像以上。音楽の力を再認識したツアーでもあった。
 「音楽は生き物だと思っている。楽しい気分にもなれるし、悲しい気持ちを共有することもできる。人の心にまっすぐ届くような、音楽を作っていきたい」。真っ直ぐな澄んだ目で、目標を語る山崎さん。踏み出したばかりの世界へと、大きく羽ばたこうとしている。

写真上/山崎千裕+ROUTE14band。手前が山崎さん
下/ソロでも目覚しい活躍


CD情報
 Y+R2枚目のアルバム「花のワルツ」を、11月に発売。チャイコフスキーの「くるみ割り人形」を、大胆にバンドアレンジ。税込1800円。HPで予約・入金すれば、11月1日のえんチャレライブでの受け取りも可能。HP
ライブ情報
◆えんチャレ無料ライブ「山崎千裕+ROUTE14band コンサート2011 花のワルツ」 初のホールワンマンライブ。「直接音が伝わる距離で、聞いて欲しい」と山崎さん。【日時】11月1日(火)午後6時開場、7時開演、入場先着【場所】天空劇場(東京芸術センター21階)【問合せ】TEL3880・5986地域文化課
◆あだち区民まつり「A‐Festa」=10月8日(土)3時半~(内20分)、無料。