足立朝日

高田松原の復興を助けたい なかだえりさん、絵本「奇跡の松」出版

掲載:2011年12月5日号
千住の蔵にアトリエを構えるイラストレーターのなかだえりさん(37)が、絵本「奇跡の一本松 大津波をのりこえて」を出版した。
 東日本大震災による津波で、岩手県陸前高田市は甚大な被害を受けた。古くから町を守り、景勝地としても親しまれてきた高田松原の7万本の松も流され、たった1本だけかろうじて生き残ったのが「奇跡の松」だ。
 その松を主人公に、高田松原の歴史、襲い来る津波の恐ろしさ、そして、奇跡の松に希望を見い出し、松原を復活させようと活動する人々の姿が描かれている。
 なかださんは岩手県一関市出身。高校時代までを過ごし、海水浴でよく高田松原に行っていたという。「子どもの頃は松がチクチクして暗いし苦手だったけど、そこを抜けると海が開けているのが好きだった」
 4月初め頃、被災した石巻の海辺を見た。「大切にしていたところが何もない。そんなところをかやぶき職人が無言で案内してくれるのに接して、描いてあげたいと思うようになった」。そんな時、出版社から依頼があった。
 震災後に訪れた高田松原の光景は、衝撃的だった。「町がほとんどなくなった中、遠くからポツンと見えて、これは希望に見えるな、と。輝いて見える」。人々の心の拠り所となっていることを実感した。
 初の子供向けの絵本で戸惑いもあったが、あえてファンタジックにはせずリアルに描いた。取材に協力してもらった「高田松原を守る会」の鈴木善久会長は、「復興が少しでも進むように、これがきっかけで注目してもらえれば」と、本の完成をとても喜んだという。
 歴史を調べる中で、松原が自然に出来たものではなく、300年以上も昔から人々がコツコツと植えて作り、守ってきたものだということも知った。「これを読んで、何年かかっても復興していけると思ってもらえれば」となかださん。松原復活の一助になることを願っている。
◆『奇跡の一本松 大津波を乗り越えて』(汐文社刊/1800円+税)。売り上げの一部は、高田松原の保全に使われる。

写真/自著の絵本を手になかださん=アトリエの蔵の前で