足立朝日

この本

掲載:2012年1月5日号
①『なまづま』堀井拓馬著・角川書店刊(552円+税)
 大学の心理学科を卒業後、ひたすら小説を書き続けた24歳の青年作家デビュー作品。第18回日本ホラー小説大賞「長編賞」を受賞し、その作風が早くもホラーファンを唸らせている。
 「ヌメリヒトモドキ」と呼ばれる、不死身で激臭を放つ粘液を全身に覆った醜悪極まりない生物が、世の中に蔓延。女王との融合を果たすことで進化するという特性を生かして、「私」は亡くなった「妻」の再生を密かに試みる。浴室に閉じ込めたヌメリヒトモドキとの壮絶な生活が始まり……。
 「ホラー」と聞くと、血生臭い内容をイメージするが、本書の根底に流れるのは「愛」。亡くなった「妻」への深い愛が、ひとりの研究者を言い知れぬ世界へと導いていくプロセスが恐怖であり、また愛おしくもあり、さらに共感できるところがまた恐ろしい。全く新しいスタイルのホラー小説が誕生した。審査員のひとり、林真理子氏は、「『私』の行為に人間の深い孤独が秘(ひそ)んでいるようだ。文章力で最後まで読ませてしまうのは凄いこと!」と絶賛。次回作も既に決定。「堀井拓馬」の名が、世の中に流布するのは間近い。
②『太陽と地球のふしぎな関係 絶対君主と無力なしもべ』 上出洋介著・講談社ブルーバックス(980円+税)
 2面の「人」欄で紹介した上出洋介氏が10年がかりで書き上げた同書は、出版から3カ月で早くも2刷が発行され、好評。これまで多数の学術書や子供向けの科学書を上梓してきた氏が、一般向けに太陽と地球の関係を丁寧にわかりやすく解説している。
 地球上の全ての存在は、誕生のルーツである太陽の活動に常に影響を受けているといい、その関係は、サブタイトルの「絶対君主と無力なしもべ」に表されている。
 生命を育むだけでなく滅ぼすことのできる太陽の力から、私たちを守っているものの一つが地磁気である。その磁力と太陽風とのせめぎ合いから生まれるオーロラの仕組みを、詳しく解説。伝書バトの迷子や、イルカやクジラの集団座礁にもオーロラが関係しているという話には驚かされる。さらに、人間への影響についても触れられている。
 今や生活に欠かせない電力や人工衛星など数多くのシステムに、太陽は大きな影響を与えている。私たちにとって「丁度いい」地球の環境が、絶対君主の前ではいかにデリケートなものであるかを、思い知らされる。
 「太陽―地球の微妙な関係にかろうじて支えられている立場であることを知るべきであり、与えられた環境を変えてはいけない」。長年研究に取り組んできた氏の言葉には、確かな重みがある。