足立朝日

千住名物酒場「千住の永見」 永見富次さん夫妻が引退

掲載:2012年10月5日号
 「このたび父と母が9月30日をもって引退することになりました。この店は私が引き継ぎますが、私はこの両親に指導されてここまで来ました。本当にありがとうございました」――。北千住駅前の通称〝飲み横〟にある千住の名物店「千住の永見」の店内マイクで、9月28日(金)夜、こんな声が流れた。
 超満員の店内に「えーっ」という声が上がると同時に、「お疲れさん!」「ご苦労様でした!」の声が響き、拍手また拍手。そして、声の主の長男・永見充(まこと)さん(42)から父・永見富次店主(73)、母で女将の昭子さん(68)夫妻に花束の贈呈。従業員が次々と駆け寄って二人と抱き合い涙、涙……。
 永見富次さんは、昭和14年、「永見酒店」の三男として生まれ、戦後すぐ居酒屋に変わった「永見」を19歳の時に継いだ。以来54年間、2代目店主として、粋で人情深く細やかな気配りで店を発展させた。ハチ巻き、下駄ばき、前掛け姿の永見さんの似顔絵付きの宣伝ポスターが、一時東武線、東京メトロ千代田線に貼られ、一躍有名に。女将の昭子さんは、発案の持ち主で世話好きの性格により二人三脚で永見さんを支えてきた。
 お祭好きの永見さんは、千住の街の「まちおこし」の一助になればと一念発起、東奔西走し、7寺社の協力の元、平成5年(1993年)に「千住宿 千寿七福神」を立ち上げた。その後、永見さんが事務局となって今年の正月で20回目を迎え、今は街にすっかり根付いた。
 2年前に転倒して頚椎を打撲、手術後4カ月入院したが、リハビリで驚異の回復、お店に顔を出し続けていた。永見さんは「寂しいけど、体を直さないといけないので、引退を考えた。店は、3代目の充で十分やっていけるし、世代交代です」と話した。

写真/「頼むぞ!」。充さんを囲んで永見夫妻=9月29日(土)撮影