足立朝日

桜研究家・樋口惠一さん 五色桜の127年間の歴史がわかる 『荒川の五色桜』を出版

掲載:2013年5月5日号
 かつて足立区の荒川土手を彩っていた五色桜。その誕生から消滅、そして復活事業の進む現在に至るまで、127年間の通史を詳細に記した『荒川の五色桜』(東京農大出版会刊)が、4月に出版された。
 副題は「ワシントン桜のふるさと」と「江北桜譜初公開」。これまで五色桜の通史が記された本はないそうで、この1冊で歴史から品種まで全てが網羅されている。
 著者は江北在住の桜研究家の樋口惠一さん(62)。元足立区職員で、環境課、公園課、㈶足立区水と緑の公社などに勤務。在職中に、上沼田小での桜の植栽を担当、レーガン桜の植栽にも関わるなど、五色桜との縁が深い。五色桜誕生に大きく貢献した里桜研究の第一人者・舩津静作氏の孫・金松氏(故)の家が近所にある。
 「五色桜」とは1つの桜の品種名ではなく、様々な色の里桜の並木が五色の雲がたなびくように見えたことからついた呼び名。春は多くの花見客で賑わい、ワシントンの桜並木はここの桜が元だが、知らない人も多い。
 同書では107品種の説明や、日米さくら交流の事業を紹介。また、舩津家の家宝と言われる桜の写生画「江北桜譜」(現在は足立区郷土博物館で保管)を初公開している。
 桜譜の題字は渋沢栄一の筆によるもので、当時桜見物に来ていたことを示す貴重なもの。舩津邸で桜譜を見せてもらった時の感動が、1冊の本をまとめる情熱の原動力となっている。
 樋口さんは多くの人の記憶から、五色桜が失われつつあることを嘆く。語り部だった舩津氏が、3年前に亡くなったことも大きい。「五色桜は相当高齢の方じゃないとわからない。語り継がれていないんじゃないか」。自身も区で事業に関わるまで、よく知らなかった。
「五色桜は足立区のブランド、名誉です。江戸の桜の集大成を植えたもの。荒川に植えられていなかったら、江戸の里桜は絶滅していたと思う」
 昨年は、日米桜交流100周年だった。「次の100年に繋げていくために、どう語り継いでいくか」。自著がその足掛かりになるのは確かなようだ。
◆『荒川の五色桜』=A5判・126頁/1800円+税。小泉書店(江北7‐14‐13、TEL3898・6171)などで販売。取り寄せ等については同書店に問合わせを。

写真上/五色桜を網羅した1冊
下/「足立の誇り。語り継がないと」と樋口さん