足立朝日

この本

掲載:2013年7月5日号
①『アンチエイジングのこぼれ話/日常生活からのヒント』(犬飼敏彦・周東寛著/発行=アイシーアイ出版、発売=星雲社、1200円+税)
 本書は、獨協医科大学の犬飼教授と、南越谷健身会クリニックの周東院長(医療法人健身会理事長)による「アンチエイジング」に関する健康トーク集。ここで言う「アンチエイジング」とは、「健康を維持するパワー」のこと。その秘訣は日常生活にある。
 例えば「朝一番の唾は飲み込まない」。悪玉菌にまみれた唾液を飲み込むと、食道炎・胃炎・膵臓炎を発症させるリスクに。その唾液にアルコールが中途半端に分解されたアセトアルデヒドがあると、咽頭ガン・胃ガン・膵臓ガンなどを引き起こすこともある。その他「病気になる理由」や、それに対する処方が明解で、幅広い知識満載のお薦め本。
 患部だけではなく、患者の体全体を診る周東院長の加筆により、「多剤少量併用」の医療を理解。院長考案の「たまねぎ食品」も試してみたくなる。

②『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹著/文藝春秋刊1700円+税)
 つくるの親友は、赤松・青海・白根・黒埜。皆、姓に色がある。いつも5人で充足した時間を共有していたが、突然4人から絶交を宣告される。その理由も解らないまま、つくるは孤独な日々を送り、死への願望を膨らませながらも、かろうじて社会人に。やがて巡り会った沙羅に励まされ、不条理な16年前の絶交の原因を突き止めようと足を踏み出す。
 そのプロセスに於いて、特徴のない言わば「色彩を持たないつくる」が、深い喪失感から徐々に回復し、色を持ち始める姿が愛おしい。絶交の理由には唖然とし、怒りやうすら寒ささえ覚えるが、真実を知った後のつくるの言動は清々しい。
 村上ワールド全開の、独自の言葉を持つ人間たち。理路整然とした言い回しが、登場人物全てをクールにしている感はあるが、言葉の深さを堪能できる。