足立朝日

涼しく長い夜は読書で過ごそう 足立区の作家が紡ぐ物語はいかが

掲載:2013年10月5日号
 いつの間にか日が落ちるのが早くなり、ようやく秋めいてきた。心にも体にも余裕が出てきた涼しい夜は、読書にピッタリ。足立区在住の作家が生みだした物語は、いかが?

●「このミス」大賞・隠し玉としてデビュー! 柊サナカ「婚活島戦記」
 ハイヒールを脱ぎ捨て、ドレスの裾を裂いたヒロインが、窓ガラスを蹴破る場面から、物語は始まる。IT社長夫人の玉の輿の座を賭けて、離島に集まった花嫁候補の美女たちが、女の意地とプライドを賭けてサバイバルゲームで火花を散らす――。
 女同士のドロドロ話と思いきや、スピード感あるアクションとスリルが満載。殺し合いではないので、バトル・ロワイヤルものが苦手な人でも楽しめるエンターテインメントだ。最大の魅力はヒロイン・アマガキ。元アングラ格闘家という壮絶な過去を持つ、オトコマエな美人の活躍が面白い。
 作者の柊サナカさん(39)は、新田2丁目在住の主婦で、3歳と1歳の2児の母。出身は香川県。兵庫県で育ち、結婚を機に4年前、足立区に。
 「婚活島戦記」が宝島社「このミステリーがすごい!」大賞2013の最終候補に残り、「隠し玉」として8月にデビューしたばかり。「隠し玉」とは、将来性のある作品を改稿し、編集部推薦で作家デビューさせるもので、今年は2作。
 「初めて出したから自分が最終まで残ると思っていなかったので、ビックリ」と柊さん。女優たちのCMを見て、「闘ったら誰が残るだろう」と着想。「私自身、学生時代は輝いている方じゃなかったので、光の当たる存在ではない主人公が、勝ち上がっていく話にしたかった」
 小さい頃から本を読むのが好きで、日本語教師として海外勤務中、読む本がなくなり、家電の説明書を読み漁ったことも。 1人目の育児中、読書の時間が取れず、「だったら自分で書こう」と思い立ったという。書く方が大変だと思うが、「主婦は自分の時間がない。社会に一歩も出ていない感じの時もあって。現実逃避というか、想像の世界で好きなことをやるのが楽しかった」。育児をしながら頭の中で話を作り、時間を見つけては書き進めた。家族も受賞で初めて執筆を知ったそうだ。
 空手は黒帯というアクティブな一面も。「アクションが好きな方、スカッとしたい方、強い女性が好きな方、ぜひ読んでみてください」
《今後の予定》
▼10月27日発売「小説すばる」11月号にコラム▼12月に宝島社のアンソロジーに短編で参加▼長編は来年、婚活島のアマガキ主役のミステリー色強めの作品を発表予定。
◆「婚活島戦記」(宝島社文庫/648円+税)

●足立区の直木賞作家・朱川湊人さん 最新刊「なごり歌」
 区内在住の直木賞作家、朱川湊人さん(50)の作品は、足立区を舞台にしたものが多い。6月の最新刊「なごり歌」(新潮社/1600円+税)もその一つ。
 ある団地が舞台の連作集。地名は出てこないが、実は花畑団地がモデル。「読む人が読めば、すぐわかるようになっています」と朱川さん。
 7篇の物語に共通するのは、「幽霊」。と言っても、オドロオドロしいものではなく、生きている人と区別がつかない、リアルな姿として登場する。だからこそ、怖さよりも、後に残した大事な人へのメッセージが伝わる。やさしく心にそっと沁みてくる、ハートフルホラー。
 前作の「かたみ歌」(新潮文庫/438円+税)。とは続きものではないので、どちらからでも。
 足立区が登場しない作品では、10月中旬に連作短編集「箱庭旅団」(PHP)の第2弾「黄昏の旗 箱庭旅団」(PHP)が発行。また、「赤々煉恋」(創元推理文庫/780円+税)収録の「アタシの、いちばん、ほしいもの」が映画化、12月公開。詳細は次号か12月号で。
◆足立区が舞台の作品
 「わくらば日記」(角川文庫/税込580円)「わくらば追慕抄」(同/700円)=梅田、「オルゴォル」(講談社文庫/税込760円)=花畑団地、竹ノ塚駅。「あした咲く蕾」(文春文庫/税込630円)収録「空のひと」=足立清掃工場など。

写真上/これが記念すべき初インタビューとなった柊さん=新田2丁目の自宅で