足立朝日

この本

掲載:2014年1月5日号
①『養生訓』病気にならない98の習慣(周東寛著/日本経済新聞出版社刊850円+税)
 約300年前に書かれた貝原益軒の『養生訓』は、現代にも通じる健康指南書。短命であった当時、84歳まで生きた益軒の健康法とはどのようなものであったのか? その食や生活習慣に対する教えを科学的に分析し、著者の意見を加えて現代人の健康に活かすためのヒントが満載。
 誰でもが簡単に実践できる98の例、例えば「乾燥野菜」。しいたけを干すとビタミンDが増え、切り干し大根は生大根よりもカルシウムが約20倍、鉄分が約50倍アップ。食物繊維が豊富で整腸効果があり、日持ちするため冷蔵庫のない江戸時代には大活躍した食品。
 読み進めるうちに感服するのは、南越谷健身会クリニック院長である著者の知識の幅広さ。医は「技」と「心」を実践する周東院長の生き様を感じ取れる。

②『祈りの幕が下りる時』(東野圭吾著/講談社刊1700円+税)
 謎の男・綿部と過去を語らぬ女・百合子。焼死したホームレス。アパートの一室から発見された腐乱死体と行方不明の部屋の住人・越川。刑事、そして一個人として彼らを追う加賀。そこに新鋭の演出家・浅井が絡み、これらの人々が「橋」をキーワードに複雑に重なり合う。
 演劇の殿堂「明治座」も登場。浅井演出の『異聞・曽根崎心中』に秘められた思いに加賀が迫る。
 ひとりの母親が道を踏み外したことで、家族のみならず、周囲の人々を悲劇に巻き込むプロセスが痛ましい。
 物語の結末に、加賀が最も知りたかった真実が綿部により明かされる。多くを語らぬ人々の心の底に眠る想いが熱く哀しい。東野圭吾、全身全霊の挑戦作に胸が震える。