足立朝日

この本

掲載:2014年9月5日号
①『渋沢栄一の経営教室Sクラス』 香取俊介・田中渉著/日本経済新聞出版社刊1600円+税
 500社の日本企業の起業に関わり、日本資本主義の父と称えられる実業家・渋沢栄一。退任後も、教育・福祉など600の社会事業も支援した。  
 時は2058年8月。かつて渋沢が造り上げた帝国ホテルで、大々的なパーティーが開催される。主役は実業家・小笠原渋、通称シブちゃんである。物語は彼の記憶をたどって進行する。実はシブちゃん、高校時代に鳥となって渋沢の時代にタイムスリップしたことがある。渋沢と行動を共にすることで、その実業家としての強い信念や手腕を学んでいく。現代に戻った高校生のシブちゃんは……。
 著者の香取氏は、元NHK辣腕ドラマプロデューサーで、「ぜひ渋沢を大河ドラマに!」という熱い思いを抱く。同じく渋沢の生き様に衝撃を受けた作家・イラストレーターの田中氏と共に、「若者に夢を!」と本書に願いと希望を託す。
②『銀翼のイカロス』池井戸潤著/ダイヤモンド社刊1500円+税
 半沢直樹シリーズ最新作! 物語は一人の優秀な銀行マンの遺書から始まる。業績不振の巨大企業「帝国航空」の担当が、本来の審査部から半沢が所属する営業第二部に移管。その修正再建案を半沢に依頼したのは中野渡頭取。通常、頭取が一企業の所管先に口を挟むことはない。
 やがて進政党の華・白井国土交通大臣が独自の「再生タスクフォース」を公言。彼女の頭脳となるリーダーの乃原より、銀行サイドに債権放棄の強い要望が伝えられる。半沢の修正再建案が履行されれば、帝国航空は再建が可能。それを無視し、恫喝する相手と半沢が対峙。徐々にその全貌を明らかにしていく。
 銀行を知り尽くした著者は、スリリングに悪を暴くと共に、「そこで生きている人々」を心憎いまでに描く。「真のプライド」の美しさ。ラストシーンでは滂沱の涙必至。