足立朝日

足立区の歴史を巡る散歩はいかが史跡と人情の詰まったガイド本 「足立区 大人の歴史さんぽ旅」

掲載:2014年10月5日号
 涼しくなり、旅に出てみたくなるこの季節。遠出もいいけれど、ちょっとした散歩で近場を旅するのもいいもの。歴史をめぐりながら足立区を歩いてみれば、身近なところに新しい驚きや感動と出合えるかも。

 これまでも、グルメと街を紹介した足立区本はいくつかあるが、7月に発売された「足立区 大人の歴史さんぽ旅」は一線を画している。表紙などに昭和32年の地図があしらわれているところからして渋い。足立区を13のエリアに分け、それぞれ地図で散歩コースを示してある、まさに散歩ガイドブックだ。
 最大の特徴はタイトルの通り、史跡や町の歴史などが、ほぼ網羅されていること。昔の白黒写真などもふんだんに使われ、眺めるだけで歴史を感じさせてくれる。
 著者は世田谷区在住のライター、山下ルミコさん。「東京今昔散歩」(JTBパブリッシング発行)の執筆後、若者たちが今一番住みたい街として北千住を挙げていることに注目。ライター仲間からも穴場だと勧められ、山下さん自身、実際に足を運んでみて、「昔と今が同居し、渾然一体になっている」ことに魅力を感じ、執筆を決めた。
 歴史をテーマにしたのは、他のガイド本と差別化の狙いもあるが、「歩いていると、ひとりでリュックをしょって歩いている年配の人が結構いた。団塊の世代のガイド本にもなるのでは」との考えからだ。
 「足立史談会」の全面協力を得て、区内を隈なく歩いた。最初は資料だけで書くつもりだったところも、史談会の堀川和夫会長の熱意につられ、「1日に2万歩歩きましたよ。そんなに歩く年じゃないのに」と笑う。
 「場所」だけでなく、「人」の紹介も見逃せない。地元愛の活動をしている人たちをはじめ、西新井大師總持寺の酒井清仁執事の深い言葉、「千住いえまちプロジェクト」の山崎たいく代表や漫談家の風呂わく三さんのコメントなど幅広い。
 山下さんが多くの人と会って話をする中で感じたのは「人情」。実は「喫茶 蔵」(千住1‐34‐10 TEL3882・0838)の電話番号が間違っているのだが、「蔵」のオーナーの寛容さに加え、誤番号宅の住民も「蔵のファンだから、間違い電話がかかってきたら正しい番号を教えてあげる」と言ってくれたという。「情に感動しました。他の本で取材をお願いした自治体は剣もほろろだったし。足立区って人のあり方が、ちょっと違うなぁという感じ。下町の良さなんでしょうか」
 個人、区役所など、多くの足立区の人たちの繋がりの結集でもある。「本当に足立区を愛するみんなの思いが、ここに入っているんですよ。五色桜ひとつ取ってもドラマチック。そういうことを区民の人に気付いて欲しいですね」
 すっかり足立区のファンになった山下さん。「弾ける元気だけでなく底力を感じました。満たされたと言う感じですね」。その思いは、あたたかさに満ちた誌面からも伝わってくる。

写真上/「また足立区で書きたい」と話す著者の山下さん




【メモ=足立区 大人の歴史さんぽ旅】A4変形判・60頁、1500円+税、発売元メディアパル(陛5261・1171)、北千住マルイ・紀伊国屋書店などで発売中