足立朝日

足立区ゆかりの作家 新刊続々 秋の夜長は物語にひたろう ホラー、ミステリー、絵本を楽しむ

掲載:2014年11月5日号
 日に日に秋が深まり、夜が長く感じられるこの季節は、読書にピッタリ。
足立区ゆかりの作家による新作で、豊かな時間を過ごしてみてはいかが。


足立区在住の直木賞作家・朱川湊人久々の長編「冥の水底」講談社/1800円+税
 朱川作品は読み切りや連作など、ホラー短編のイメージが強い。不思議で懐かしい雰囲気に満ちた短い物語の中に、じんわりと染みるあたたかさ、背筋がヒヤリとするような不気味さ――心を揺さぶるそれらのエッセンスが、ギュッと詰まっている。
 その魅力的な時間をもっと長く味わっていたい、と思っていた読者も多いだろう。「冥の水底」はまさに、願いに応えてくれる作品だ。四六判2段組の約500ページ。分厚さにためらう人もいるかもしれないが、読み始めるとスイスイ進んでしまうので、心配ご無用。思う存分、朱川ワールドに浸ることができる。
 物語は医師・市原玲人が、友人のフリーライター・平松光恵から奇妙な写真を見せられたことから始まる。そこに映っていたのは、首から上だけが狼の「狼男」の死体……。数日後、忽然と姿を消した平松を探して、市原は山奥に住み特殊能力を持つ人々「マガチ」の謎に迫っていく。
 20年前、初恋の少女を追って東京で暮らし始めたマガチの青年・シズク。彼がつづる手紙と、市原の謎解きが交互に描かれ、読者は2人の主人公の物語を同時に体験することになる。
 ホラーというよりも推理ミステリーのスリルと、究極の純愛、そして、人という存在の多面性を考えさせられる、味わい深い読後が待っている。
 竹の塚、西新井なども舞台として登場する、足立区民必読の1冊。
柊サナカ 2作目「レディ・ガーディアン 予告誘拐の罠」宝島社文庫/680円+税
 昨年8月、宝島社の「このミステリーがすごい!」大賞隠し玉として、「婚活島戦記」(宝島社文庫)でデビューした柊サナカさん(40)の2作目。
 柊さんは新田2丁目在住の2児の母で、育児に追われて大好きな読書の時間が取れず、頭の中で物語を作るうちに出来たのがデビュー作。その「婚活島」のヒロイン・アマガキが、今作でも活躍する。元地下格闘家という壮絶な過去を持ち、美人だが性格は男前のアマガキは、欠けている部分があるからこその不思議な魅力がある。
 物語の舞台はマカオの水上都市。そこを牛耳るカジノ王の溺愛する娘に誘拐予告が送りつけられ、アマガキが雇われた。戦闘能力に秀でた女4人のチームで護衛するが、鉄壁の防犯システムに守られた密室から娘の姿は消えてしまった。トリックは、そして犯人は一体誰なのか。
 空手有段者の作者ならではの、リアルでスピード感溢れるアクションも見どころの一つ。強い女性好きにおすすめ。
聞かせ屋。けいたろう初の絵本「どうぶつしんちょうそくてい」文=聞かせ屋。けいたろう、絵=高畠純(アリス館/1300円+税)
 ゴリラ先生の身長測定に次々とやってくる動物たち。うさぎ、カンガルー、キリン、ワニ……。高く見せようとズルをしたり、高すぎて測るのが大変だったり。
 動物たちの思いがけない行動に、ついクスリと笑ってしまう。高畠純氏のユーモラスな絵も、ほんわかと癒してくれる。大人でも手元に置いて、時々開きたい絵本だ。
 「聞かせ屋。けいたろう」さん(荒川区在住)は、2006年に北千住駅前で絵本の読み聞かせを始め、今や年間170本の講演会で全国を飛び回る。
 昨年絵本の勉強会で、「君ほど絵本を読んでいる人はいない。そろそろ書いたら」と勧められたのが、執筆のきっかけ。「楽しい絵本を紹介するのが役目だと思っていたので、まさか自分が書くなんて」。保育園でアルバイトをしている時に、身長測定を泣いて嫌がる子どもの姿を見て、話を思いついた。「リアルな動物の生態を描いた正直な絵本にしたい」。動物園では健康管理のため体重測定はあるが身長は測らないと聞いて、上野動物園で実際に動物たちをメジャーで測った。「誰かが僕の本を読み聞かせてくれるのがすごくうれしい」とけいたろうさん。
 月1回、北千住駅前で夜、大人向けに読み聞かせも続けている。HPで日程確認を。第2弾「どうぶつたいじゅうそくてい」も発売中。