足立朝日

手作業でやさしさ伝わる 区内2社の雛人形 幸一光㈱松崎人形、㈱一秀

掲載:2015年2月5日号
 節分も過ぎ、暦の上では春。立春は雛人形を飾り始める頃でもある。足立区には全国でも屈指の雛人形の製作会社がある。3月3日の桃の節句に向けて、一年で最も忙しい2つの会社を訪ねた。

◆幸一光・㈱松崎人形
 雛人形には「木目込み」と「衣装着」の2種類がある。前者は桐糊(桐の粉に糊を混ぜたもの)を固めたボディに溝を掘り、そこに布地の端を入れ込んで着物を着せるもの。後者は出来上がった衣装を胴体に着せるもので、通常は顔と胴体は別の人が作る。
 「両方やっているのは、うちだけ」と、人形師・幸一光さんこと、社長の松崎光正さん。もともと衣装着だけだったが、ものを作るのが得意で木目込みも始めた。
 大正9年に台東区で創業、光正さんで3代目になる。美大で学んだ彫刻の道に進むはずだったが、父の早世で後を継いだ。柔軟な感性を生かして、節句人形以外も手がける。
 ジブリ美術館の依頼で限定の「かぐや姫」(販売終了)を製作。また、東京都美術館のミュージアムショップには、「おぬしも悪よのう」ポーズのユニークなアロマ屋文左衛門(アロマポットの)が売られている。
 人形作りはどれも全て手作業だ。光正さんが最初にかしら(頭)を作り、14人のスタッフがパーツや作業を分担して一つひとつ丁寧に仕上げていくため、年間の製造数は5000体程度。「江戸の雰囲気、江戸風みたいなものを目指している」というデザインは華美にならずシンプル。表情もほんわかとあたたかく愛らしい。
 一人暮らしの娘が帰宅した時に癒されるようにと、父親からの注文が来たこともある。「そういう話を聞くだけで、うきうきします。人形は気持を伝えるのに一番いいと思うんですよね」と光正さん。
 雛人形はいつまで飾っていいのだろうか。「旧暦まで飾ってください。その頃なら桃の花も咲きます。生花をちょっと生けていただくだけで、ガラッと雰囲気が変わりますよ」
 3月3日を過ぎて飾っていると婚期が遅れると言われるが、旧暦だと梅雨入り間近で人形にカビがつくために生まれた迷信という説もある。
【メモ】栗原2‐4‐6、TEL3884・3884、HP
◆㈱一秀
 きらびやかな金襴をまとった姿は、まさに平安の雅。気品が漂う木目込み人形は、業界内の評価も生産量も大手だ。
 昭和21年に先代が板橋区で創業。「今の若いお母さんたちに、こういう人形だったら娘のお祝いに飾りたいと思ってもらえるものを」という木村公平社長(68)以下、従業員は28人。妻で専務の安子さん(伝統工芸士)がチーフプロデューサー、娘の綾さんがプロデューサーを務め、伝統を大事にしながら新しい感覚を取り入れたデザインを生み出している。
 かしらは原型をもとに職人が製作。ガラス玉を使った目は、生き生きと輝く。スワロフスキーを1つ1つ糊付けした、きらめく衣装も。帯地を使った厚い布を細い溝に木目込むのは力がいる上、シワ取りも技術がいるので、1日2体ぐらいしか着せられないという。
 手間がかかっている分、「どうしてもこれがいい」と惚れこみ、2月一杯待ってでも欲しいという取引先もあるそうだ。「親族揃ってお祝いする場に、飾っていただければ、人生の中で忘れられないものになると思う」
【メモ】島根2‐31‐23、TEL3859・3131
◆両社の人形は、全国有名百貨店、人形専門店で販売。幸一光は「家庭画報」で通販もある。
【重陽の節句は大人のひな祭り】
 9月9日は五節句の一つ、重陽の節句。不老長寿を願う菊の節句で、「後の節句」とも呼ばれる「大人の雛祭り」として、最近注目されている。業界全体でこの節句を盛り上げようと、大人向けの落ち着いた色合いの雛人形もある。「飾っていただければ、部屋の雰囲気もガラッと変わって気持ちも明るくなります」と木村社長。10月15日の「人形の日」まで約1カ月の間、自分のためのお気に入りの雛人形を楽しんでみては。

写真上から1/大人でも思わず飾りたくなるかわいいお雛様(幸一光作)
2/オリジナルの人形たちと光正さん
3/分担作業で1体を作る=一秀で
4/木村社長