足立朝日

映画「ビハインド・ザ・コーヴ」で初監督 千住出身 八木景子さん

掲載:2016年2月5日号
 「今でも不思議ですけど、偶然が重なって、どんどん何かに連れて行かれた感じでした」
 何か使命のようなものを持っている人というのは、確かにいるのだろう。八木景子さん(48)に撮影中の話を聞いていると、そんな風に思えてくる。
 八木さんの初監督映画「ビハインド・ザ・コーヴ」が、1月30日(土)から公開されている。昨年9月、カナダの第39回モントリオール世界映画祭ドキュメンタリー部門に正式出品。和歌山県太地町のイルカ漁を一方的に批判した映画「ザ・コーヴ」への反証をこめて制作されたもので、自民党でも上映会が開かれるなど注目されている。
 八木さんは千住出身。外資系やハリウッド・メジャー映画会社の日本支社に勤務してきたが、映画制作は全くの未経験。にも関わらず、監督・撮影・編集も全て一人でこなした。「事実を記録するつもりでホームビデオを持って行ったら、深みにハマってしまった」
 きっかけは2014年、日本の調査捕鯨の見直しを迫る国際司法裁判所の裁定への疑問だった。このままでは、鯨が食べられなくなってしまう。
 なぜ、海外で鯨やイルカは特別視され、日本が反捕鯨活動の標的にされるのか。単身和歌山に乗り込み、スポンサーもなく預金を切り崩しながら、太地町に4カ月滞在。「なぜ」を出発点に、次々に現れてくる「なぜ?」を一つ一つ突き詰めていった。
 特筆すべきは、インタビューに登場する人物の顔ぶれだ。オスロ大学の生態学教授、IWC(国際捕鯨委員会)の元日本政府代表、「ザ・コーヴ」で傷つき頑なだった太地町の人々、そして、シーシェパードのリーダーや「ザ・コーヴ」の監督と主演まで、様々な立場の人たちが自らの言葉で語っている。
 八木さん自身、「トップシークレット級のことを話してくれている」と驚き、IWCの重鎮に取材を受けてくれた理由を聞いたところ、「金稼ぎしようとか、やましい気持ちがないことが分かる」と言われたそうだ。「なんで、なんで?と、子どもっぽいところがあるからじゃないかな」と笑う。その熱意と行動力が、日本と鯨の歴史、反捕鯨の裏にあるものを浮かび上がらせる。
「日本人は事なかれ主義で、ちゃんと向き合って話すことが苦手。でも言われっぱなしで発信しないと、事実じゃないことが事実になっちゃう」。「ザ・コーヴ」はアカデミー賞をとり、その内容を信じた世界の人たちから日本がどう見られているかということに、日本人は鈍感だ。「沈黙は金ではなく『禁』ということを、気づいてもいいんじゃないかな」
 映画の示した課題を、どう受け取るか。八木さんからの宿題なのかもしれない。
★映画「ビハインド・ザ・コーヴ」(配給・宣伝=合同会社八木フィルム)は新宿K’s cinema(新宿駅東南口、TEL3352・2471)で公開中。鑑賞券を5組10名にプレゼント。

写真上/八木景子さん