圧倒的筆致のミステリ足立区から
足立区にまた一人、新たな星が誕生した。「第36回横溝正史ミステリ大賞」(主催=㈱KADOKAWA)を受賞した逸木裕さんである。作品名は「虹を待つ彼女」。同賞は「山田風太郎賞」「日本ホラー小説大賞」と並ぶ「角川三賞」の一つで、今回の応募総数は196編。
昨年は「該当者なし」というほどの厳しい選考を突破した同作品は、「人工知能」を題材に圧巻の筆致を誇る。読者の推理を最大限に促し、鮮烈なラストに導く。各場面が鮮やかな色彩を放ち、まるで映像を観ているような錯覚にとらわれる。有栖川有栖、恩田睦、黒川博行、道尾秀介各審査員を、「他の候補作を圧倒しての受賞」と言わしめた傑作である。
野球少年としてスポーツを楽しみ、なおかつ読書に親しんだ逸木さんが、物語を書き始めたのは中学1年のころ。当時から、江戸川乱歩や横溝正史などを読破するミステリ大好き少年であった。
しかし、大学時代から十数年のブランクに突入。多くの読書体験を重ねたことで、重鎮たちの作品の凄さを見せつけられ、自信喪失してしまった。
悶々とした日々の中で大学を卒業し、企業に就職して6年目にプログラマーとして独立。結婚を機に足立区に移り住み、仕事に没頭しつつ趣味のホルン演奏を楽しむ毎日を過ごした。かつて、オーケストラに所属し、音楽の楽しさ・素晴らしさを知る逸木さんは、音楽仲間と様々な室内楽によるコンサートを定期的に開催。区内の「わたなべ音楽堂」でも演奏を行ったという。
ホルンは特に難しい楽器と言われている。演奏技術習得と執筆の共通点は、逸木さんによると「継続して努力していると、ある日突然、上達したという実感を味わう」こと。それを感じた時に、「とにかく最後まで書ききろう。そのうち何とかなる」という心境の変化があった。今回の受賞作は、投稿し始めてから4作品目となる。審査員からは「すぐに次が書ける人」とうれしい講評があり、期待が寄せられている。
足立区在住5年。逸木さんは、神社仏閣の鑑賞を好み、夫妻で足立区内を巡り歩いている。近場でショッピングや食事、盆踊りや映画鑑賞などを楽しみ、目下足立区ライフを満喫中。その中で静かに次回作の構想を練っている。足立区から再び傑作が生まれる日は近い。
(受賞作品は9月30日、㈱KADOKAWAより発刊。1600円+税)
写真上/撮影=©中惠美子氏
足立区にまた一人、新たな星が誕生した。「第36回横溝正史ミステリ大賞」(主催=㈱KADOKAWA)を受賞した逸木裕さんである。作品名は「虹を待つ彼女」。同賞は「山田風太郎賞」「日本ホラー小説大賞」と並ぶ「角川三賞」の一つで、今回の応募総数は196編。
昨年は「該当者なし」というほどの厳しい選考を突破した同作品は、「人工知能」を題材に圧巻の筆致を誇る。読者の推理を最大限に促し、鮮烈なラストに導く。各場面が鮮やかな色彩を放ち、まるで映像を観ているような錯覚にとらわれる。有栖川有栖、恩田睦、黒川博行、道尾秀介各審査員を、「他の候補作を圧倒しての受賞」と言わしめた傑作である。
野球少年としてスポーツを楽しみ、なおかつ読書に親しんだ逸木さんが、物語を書き始めたのは中学1年のころ。当時から、江戸川乱歩や横溝正史などを読破するミステリ大好き少年であった。
しかし、大学時代から十数年のブランクに突入。多くの読書体験を重ねたことで、重鎮たちの作品の凄さを見せつけられ、自信喪失してしまった。
悶々とした日々の中で大学を卒業し、企業に就職して6年目にプログラマーとして独立。結婚を機に足立区に移り住み、仕事に没頭しつつ趣味のホルン演奏を楽しむ毎日を過ごした。かつて、オーケストラに所属し、音楽の楽しさ・素晴らしさを知る逸木さんは、音楽仲間と様々な室内楽によるコンサートを定期的に開催。区内の「わたなべ音楽堂」でも演奏を行ったという。
ホルンは特に難しい楽器と言われている。演奏技術習得と執筆の共通点は、逸木さんによると「継続して努力していると、ある日突然、上達したという実感を味わう」こと。それを感じた時に、「とにかく最後まで書ききろう。そのうち何とかなる」という心境の変化があった。今回の受賞作は、投稿し始めてから4作品目となる。審査員からは「すぐに次が書ける人」とうれしい講評があり、期待が寄せられている。
足立区在住5年。逸木さんは、神社仏閣の鑑賞を好み、夫妻で足立区内を巡り歩いている。近場でショッピングや食事、盆踊りや映画鑑賞などを楽しみ、目下足立区ライフを満喫中。その中で静かに次回作の構想を練っている。足立区から再び傑作が生まれる日は近い。
(受賞作品は9月30日、㈱KADOKAWAより発刊。1600円+税)
写真上/撮影=©中惠美子氏