足立朝日

足立区民合唱団常任指揮者 坂本 和彦 さん(65)

掲載:2016年12月5日号
全ての体験は最高の音楽のために

 9月3日、新国立オペラパレス1814席を満席にした観衆の大きな拍手が会場に響き渡り、カーテンコールが繰り返された。前シアター1010館長の故市川森一が生前構想を温めていた「古事記」の舞台化・東京公演が終了した瞬間である。Super神話音楽劇「ドラマティック古事記~神々の愛の物語」として、市川の実妹・市川愉実子の台本により、市川の妻で女優の柴田美保子の語りに乗せ、西島数博、真矢ミキ、東儀秀樹、宝田明、錦織健、舘形比呂一、坂元健児ら一流俳優・アーティストによる華麗な夢の舞台だ。その音楽監督・指揮を務めたのは坂本和彦。「東京公演ではオーケストラでやることが夢」という柴田の想いを受け、坂本が初の指揮を振った。
 日本オペラ振興会会員指揮者、公益財団法人としま未来文化財団音楽監督、東京音楽大学・大学院・付属高校講師、日本指揮者協会事務局長・幹事、G・DREAM21レディースオーケストラ音楽監督・指揮者など、その活躍の場は数知れないが、足立区と坂本との縁は深い。坂本はシアター1010創設時の立ち上げメンバーの一人で、現在は足立区民合唱団の常任指揮者でもある。
 これほどまでに音楽の世界で活躍しながら、坂本がこの道を目指したのは高2の時。それまではスポーツに明け暮れていたが、坂本の溢れる音楽の才能を見抜いた教員から音大への進学を勧められ、東京音楽大学へ。当時、同大学に創設された指揮科に入り、歌・オーケストラ・ブラスなどあらゆる音楽に触れた。4年次に学長から留学の推薦を受け、中学から大学まで青少年赤十字で活躍した経験から、スイスを希望。音楽とは関係なく、赤十字社を創設したアンリ・デュナンの故郷である憧れの地での学びをスタートした。
 2年後にはチューリッヒの劇場の試験を受け、世界中から集まった受験者の中から坂本が副指揮者として選ばれた。さらに2年半をそこで勤めて帰国。天皇陛下即位20周年・ご成婚50周年では、「太陽の国」の御前演奏(東京都交響楽団、EXILE歌唱)の指揮をした。坂本は、全ての体験をパワーに変えて、日々、最高の音楽を聴衆に届けている。