足立朝日

Vol.70-そのまま -ベンガル-

掲載:2008年5月5日号
 社会の片隅に埋もれ、不器用な生き方しかできない人間たちに常にスポットを当てる脚本家・演出家の水谷龍二。切なくも、柔らかな幸せを感じる物語が、またひとつ誕生した。競馬予想屋人情喜劇「そのまま!」の稽古現場が今、静かな熱気を放っている。
不器用に人を思いやる温かさ
 競馬予想屋の石橋(ベンガル)は、家庭を振り返ることなくこの道30年。父を恨む娘・理恵(藤谷美紀)とも離れて暮らす。唯一の弟子・修二(大沢健)も、嘘が許せずに波紋。仲間の予想屋・酒井(小宮孝泰)が仲を取り持とうとするが、徒労に終わる。ある日、石橋の予想で大穴を当てた立花(上杉祥三)の会社が、部下の陽子(星名優里)の言葉で、倒産寸前だと分かる。素性の知れない女・チエミ(山田まりや)も登場。立花は、社運を石橋の予想に賭けるが……。

 水谷特有の軽妙なセリフ運びの中に、さり気なくお互いを気遣う人間たちの優しさが滲み出し、心を打つ。飲み屋(主人=でんでん)での会話も温かく、昭和の良き時代を彷彿とさせる。今回、初めての競馬予想屋を演じるベンガルは、実は大のギャンブル嫌い。
 「早朝からパチンコ屋に並ぶ列を見ると、仕事しろよ~と言いたくなっちゃう。競馬も全然知らないけれど、人の運不運を預かって、例え予想が外れても、みんなの罵倒を受けながら、最後まで踏ん張っている、ある意味で人生の何かを捨てたような予想屋というものに興味を持った。2日間だけの物語で、それぞれの人生が変わっていく。観劇後に、人生、最後はきっといいことがあると感じてもらえたら幸せ」とメッセージを送る。
上演期間=5月22日(木)~28日(水)。S席7000円、A席5000円。1010席1010円。チケットTEL5244・1011。