足立朝日

女子校・男子校 成長伸びやかに 潤徳学園×足立学園 校長対談

掲載:2017年10月5日号
 区内唯一の女子校・潤徳学園(高校)と男子校・足立学園(中学・高校)。全国的に共学化が進む中、女子校・男子校の特性を生かして、社会の大きな変化を生き抜く人材を育んでいる。共学にはないメリットや教育方針など、潤徳学園・木村美和子校長、足立学園・寺内幹雄校長に聞いた。

 北千住駅を挟んで西と東にある両校は、ともに堀内亮一氏が創立、牧野菊之助氏が初代校長を務めた姉弟校。潤徳学園は創立94年。ほぼ全員が大学に進学する中、部活動ではレベルの高い吹奏楽部に加え、最近は新体操部など各部の活躍が目覚ましい。足立学園は創立88年。柔道部の強豪校として全国で知られ、また東大現役合格を2年連続で出すなど、文武両道で注目されている。
◆異性の目を気にせずのびのび
――男子だけ、女子だけで学ぶ環境の長所は?
寺内校長(以下寺内) 女子がいても普通に伸びていくお子さんもいますが、うちは女子がいると成長しにくい生徒が多く、男子だけの環境は、自分をさらけ出せる良さがありますね。
木村校長(以下木村) うちはおとなしめの子が集まりますね、男子そのものが怖いとか。でも元気な子もこの学校で良かったと言います。理由は「男子からの目線を気にしなくていい」。私自身女子校出身で大学時代に感じたのですが、共学出身の女性は男性からどう見えるかをすごく気にしますね。生徒全員との面接で1年生に「女子校、どう?」と聞くと、「地が出せて楽しい」「もっといじめとかあるのかと思った」と。作られたイメージがあるのかなぁ。
寺内 中学生ぐらいの時は女性の方が成長が早い。前に他校のフィールドワークを街で見かけたんですが、フラフラしている男の子が、女の子に「早くしなさいよ!」と怒られて仕方なく従っていて、ああ、これじゃ男子は育たないな、と思いました。
木村 お姉さんになっちゃうんですよね、同じ歳の女の子は。
寺内 それと、男の子の集団は横に目が行かない。だから隣の子が何しようが気にしない。偏差値30の子が「オレ東大に行くんだ」と言っても「やってみたら」と本気で思うし、馬鹿言ってもからかわれたりすることもほとんどない。それが男子校のメリットだと思います。
◆男女の違いを考慮
木村 授業は女子向きのやり方をしています。女子は静かな雰囲気がいいんですよ。男子に比べて耳が敏感。男性が普通にしゃべっているつもりでも、なんでこの人怒っているんだろう、と。
 自己肯定感の低い子には、自己肯定感がもてるような授業をします。自信が持てなかったら前に進めないので、卒業する頃には自信をつけ、社会で活躍してほしい。そしてリーダーシップをとるよう指導しています。自分自身がリーダーでない時でも、リーダーを手助けできますよね。そういう社会人になれたら最強かな。
寺内 成功体験、達成感は大事ですね。必ずしも自信を持ってうちに来ている子ばかりじゃありません。補習や追試をやって、「合格点が取れた」と喜ぶ子たちを見ると、自信の大切さを痛感します。
 数学の授業では、女の子と男の子は違う。男の子は例題を解説して、「はい、やってごらん」と言えばやります。
木村 女の子は丁寧な説明を好みます。そして、もともと女性の方が自己評価が低いので、誉めた方が伸びます。
寺内 男の子だって誉められて伸びます。ただ、手取り足取りだと嫌がります。あとは自由にさせてよと。でも、お母さんがよくやっちゃうんですよね。やり過ぎると、それに合わせちゃった子が手を放されると何をしたらいいかわからないので伸びにくい。
木村 脳の発達の仕方が違いますしね。
寺内 男の子は英語とかコツコツやる教科は苦手な子が少なくない。記憶力を鍛える意味も兼ねて漢字テストをやっています。合格するまで残して書き取りをやってまたテストというのを繰り返しますが、合格させようと思う教員とテコでも動かない生徒と根競べになります。
木村 うちは英語得意な子が多いですね。
寺内 性の違いを見てあげないといけないと思います。男子校だから強くたくましくというのがついて回るけれど、強いだけでは何の意味もない。社会や人のために貢献できるセンスがないと強さが生きない。「品格あるたくましい男子」を育てるという教育理念が名実相伴ってきたかな。先日のミニ説明会で高校受験生の親たちが、「こんなにきれいなんですね。男子校のイメージがガラッと変わった」と言ってくれました。
木村 男子校・女子校は自分の適性を見極められるという点で強いんじゃないかな。生き抜く力というか、楽しく生きる力はつくと思いますね。
寺内 3年前から性教育にも取り組んでいます。助産師さんの講演で、子どもができなかった夫婦に子どもが生まれて祝福される動画を見ます。生徒の感想のほとんどが感動的で、「今まで僕は母親に対して乱暴でした。もうクソババァなんて絶対言わない。周りに見守られて、どれだけ大事にされて育ってきたかわかった」「死ぬことを考えていたけれどやめます」「僕に今お母さんはいないけれど、こうやって大事に育ててもらったんだと思うと感謝でいっぱい」とか、すごいんですよ。
 伝統ある男子校で、性教育を重視して取り組んでいる学校はないでしょうね。
木村 女子校では昔からありますからね。
◆昔のマイナスイメージからの脱却
――足立学園はヤンチャだった昔のイメージがある地元の人は、最近の生徒の活躍に驚いています。どのように変革を?
寺内 私が入ってすぐの頃は、生活指導も後手後手でした。そんな時代だったので、とにかく生徒の面倒をよく見よう、大学に行きたい子がいれば、全国の大学を探そう、となりました。
 34年ぐらい前に大学を意識して進路指導をしました。校内にあった合宿所で勉強合宿をやりました。とにかく勉強をしっかりやろうという姿勢が若い教員を中心に出てきて、面倒見のいい学校という評価がついたと思います。
 そして、大学進学を伸ばしていこうという目標ができました。最近は東大の理Ⅲに合格が出たり、中学受験の偏差値40から東大合格も出たので、勢いがついたかな。
 東大理Ⅰに行った子は、中学受験の時に塾や予備校にも行かず、東大を受ける時も、学校の授業と自分で勉強して受かったと聞いています。
◆地域に生徒たちを知ってもらう
寺内 木村先生は私より先に校長になられて、地域とのつながりを大事にされているじゃないですか。うちはそれまであまり外に出て行かなかったので、今出ていくといろいろ言われますね。
木村 私も最初は、周囲の方から見れば図々しく出ていきましたよ。でも、下町・北千住はいいところですよね。
寺内 地区対の集まりに出ると、「20年前まではひどい学校だったよ」と地域の人に言われますからね。
木村 私も言われますよ。潤徳の生徒は良くなったね、と。いえ、元々いいんですよ、と(笑)
寺内 顔を出すことで、「そばにあるけれど、どういう学校かさっぱりわからなかった。あなたが出てくることによって、見えるようになった」と言われます。
木村 「千住母の会」の会長さんが新任の警察署長さんに「潤徳は私の母校で、高校生のお手本のような学校だから」と言ってくださって、最近ではそれが一番うれしかった。吹奏楽部が青少年健全育成の集いで演奏の機会をいただいているのですが、その時に裏方や楽器を運んだりするのも見てくださっているんですよ。
 社会との関わりの中で生徒たちが成長していくので、地域の方々にも積極的に関わって応援していただきたいなと。うちはアルバイト禁止なので、生徒たちは親と先生しか大人を知らない。外の方に誉められると、自己肯定感が高まりますしね。私が普段言っているのと同じことでも、外の方の言葉は力があります。ものすごく感謝しています。
◆新時代に向けての教育改革
木村 2020年に大学入試改革があるんですが、今の中3、つまり次の入学生がその1期生になります。それに合わせて、4つのコースのうち、福祉進学は閉じて、そこで培ったものを必修のグローバル教養にします。
 この科目は2単位で、1単位はイングリッシュアイランドで英語によるディスカッション。1単位はユニバーサルフォレストで、福祉の内容を含めて社会の諸問題を生徒たちがディスカッションするというものです。例えば、児童労働、貧困問題など。そして世界で活躍する女性について調べ、発表し自分自身の生き方を考える。手話やカウンセリングも学びます。
 昔はアクティブラーニングという考えさせる授業だったのが、共通一次、センター試験で暗記の授業になってしまいました。それが、知識をベースにして考え自分の意見を言う方向に戻っています。
寺内 学力の3要素の基本の一つが、知識・技能、二つ目が思考力・判断力・表現力、三つ目が主体性・多様性・協働性・人間性。国立大学の推薦入試でこれから起こりうることですが、自分がどういう人間であるかをテストするのに、例えば部活で何を学んできたか、学校行事でどんな役割を果たしてきたか、それをポートフォリオにまとめて提出しなさい、となります。
 授業改革は、中2~高1まで電子黒板を揃えていますが、来年は高2まで揃えようと思っています。それによってタブレットに問題を送り、生徒が答えを電子黒板に返すという双方向授業ができます。
木村 うちは今度の入学生からは全員にタブレットを持たせるんですよ。キーボードもつけて。
寺内 クラウドサーバーにフォルダを作って、生徒は家から宿題にアクセスできます。予定表、質問箱、意見箱もあるので、「先生の授業、最近面白くないよ」とか生徒がいろいろ書き込めるんですよ。
 30年度からは文理科をなくして普通科1本で、文理コース、総合コースの上に探究コースを作ります。このコースはこれからの時代を生き抜いていける人材を育成するので、難関国立大学や医学部、海外の大学を目指します。
 再来年には本格的に高1の留学をスタートしようと、今急ピッチで準備を進めています。
木村 まだ社会に女の子は勉強しなくてもいいという雰囲気がありますが、本校はほぼ全員大学に行っていますし、偏差値も上がっています。大学を出ていないと、30~40代での収入が違うので、女性の方が逆に学歴が必要と感じています。「キャリアインタビュー」という名称で、働いている女性を招いて生徒5~6人でインタビューし、それをまとめ、発表していますが、その後に自分の人生設計を描かせます。
寺内 私たちの育てた子どもたちが、どうやって社会に出て活躍していけるかは、困難に立ち向かう勇気と協働で課題を解決していく力が大切だと思います。
木村 そして周りに助けを求めること。女性はまず子育ての問題がある。苦しいと言えて、周囲に助けてもらう力も大事ですよね。

写真上から1/雑談も交えながら教育の喜びを語る木村校長(左)と寺内校長=潤徳学園校長室で
2/潤徳学園木村美和子校長
3/足立学園寺内幹雄校長
4/潤徳学園の生徒たち
5/足立学園の生徒たち