足立朝日

「千住クレイジーボーイズ」のノベライズを執筆 諸星 久美 さん(42) 舎人出身

掲載:2017年9月5日号
夢は口に出せば叶えていける

 丁寧な描写の端々から、街へ向けたあたたかい視線が伝わってくる。その中で生きる登場人物たちの存在感が、鮮やかだ。
 千住を舞台にした足立区発のドラマ「千住クレイジーボーイズ」のノベライズ(センジュ出版発行)が、プロとしての第一歩となった。
 自宅のある草加から、職場のベーカリーカフェがある千住に通い始めて2年。センジュ出版のイベントで知り合った社長の吉満明子さんに、持ち込んだ自作が評価されて依頼に繋がった。
 等身大の街を描く上では歩き回って調べ、「面白い街だな」と実感。それまでも、勤務先のレジで話しかけてくる客が多く、「なんてフレンドリーなんだろう」と感嘆することがしばしばあった。垣根のない客たちの影響で、スタッフも親しみやすい接客に次第に変わったという。今では常連客が来ないと心配するほどで、「話しかけることが、この町に根付いている」。
 執筆にあたっては、ドラマを繰り返し観て人物描写を掘り下げた。吉満さんから最初に言われた「できるよ。楽しんで」の言葉が「お守りみたいに」執筆中の支えになったという。「もっと深く」との注文に、洞察力や想像力の殻を破る経験を積み重ねた。「仕事なのに、特別な授業を受けさせていただいた」と充実感に目を輝かせる。
 子どもの頃から本が好きだったが、作家の夢を意識するようになったのは、出産を機にパソコンの勉強を始めてから。外出もままならない育児ストレスの中、日常を離れて一人になれる時間を求めて小説を書き始めた。「誰かのママだけに、なりたくなくて」
 現在、子どもたちは中3、中1、小4。〆切間近には執筆に集中するため、家族の協力なしにはできなかった。そんな自分を責めた時期もあったが、「キラキラしている自分を見せることもいいんじゃないか」と肯定的に捉えられ、書くことで家族の中で大切にされているのを痛感している。
 以前は小説家志望は心に秘めていたが、無謀と思われる夢に向かって自ら進む息子の姿を見て、学んだ。
 「夢って口に出せば、叶えていけるんだ!」
 webサイトORDINARYで、今回の経験を綴ったエッセイ連載も始めた。全ての時間を家族に使うだけが愛情ではない。好きな自分を持つことで、家族への感謝や絆が深まる。「お母さんの励みになったらいいな」。明るく輝く笑顔が、何よりもそれを証明している。