足立朝日

千住出身 八木景子監督 「ビハインド・ザ・コーヴ」 ロンドンの国際映画祭で 「長編ドキュメンタリーベスト監督賞」

掲載:2018年3月5日号
 千住出身の八木景子監督(50)による初監督映画「ビハインド・ザ・コーヴ~捕鯨問題の謎に迫る~」が、2月17日(土)、「ロンドン・フィルムメーカー国際映画祭2018」で「長編ドキュメンタリーベスト監督賞」を受賞した。


 「ビハインド~」は、和歌山県太地町のイルカ追い込み漁や捕鯨を批判したアメリカのドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」への反証を込めて制作された(2016年2月5日号「人」欄に掲載)。日本の伝統としての捕鯨文化や反捕鯨運動への批判を公平な視点で取り上げ、2016年の公開以来、各国の映画祭で注目を集め続けている。
 今回、反捕鯨国であるイギリスの映画祭で受賞した意味は大きい。映画の持つ力、中立性、情熱などが評価されたものだ。
 映画「ザ・コーヴ」は、意図的な編集により町民やイルカ漁への悪印象を演出するなど、当初から偏りが指摘されていた。それに対し「ビハインド~」では、八木監督が太地町に4カ月滞在して丁寧に取材。町の人の話だけでなく、オスロ大学の生態学教授、IWC(国際捕鯨委員会)の元日本政府代表、更に反捕鯨活動団体シーシェパードのリーダーや「ザ・コーヴ」の監督と主演にまでインタビューを敢行し、様々な立場の人から本音を引き出している。
 第39回モントリオール世界映画祭ドキュメンタリー部門正式出品をはじめ、ノミネートされた映画祭は30を超える。八木監督は「IWC本部があり、反捕鯨家が活動するイギリスで認めてもらわないと、と思って出品した。今回は編集、監督、作品賞のトリプルの3部門でノミネートされた」と手応えを喜ぶ。
◆反捕鯨の本質
 八木監督の「ビハインド~」制作の出発点は、日本の食文化である鯨料理が消えることへの不安と、日本が反捕鯨活動の標的にされることへの疑問だったが、映画は鯨の裏にある複雑な問題を次々にあぶり出していく。
 「反捕鯨は、国際会議が戦勝国によって全てリードされているという世界の現状を表している。国益、戦略という点で日本の外交下手を露呈した映画だと思う」。宗教観の押し付け、人種差別、メディアのプロパガンダなど、日本人が知らない日本を取り巻く不条理を突き付けてくる。「今問題になっている戦争認識や、竹島にも慰安婦にも通じている」と八木監督は話す。
 映画の中の情報量が多く、見るたびに発見があり、リピーターが多い。
◆世界ネット配信の快挙
 昨年8月にDVDがポニーキャニオンから発売。また、世界最大の配信会社Netflixから、各国の言語に翻訳されて世界189カ国へ配信されている。アニメ以外では極めて異例だ。
 観た人の反応は「めちゃめちゃいい」と八木監督。思想が固まっている推進派・反対派の意見が変わることはないが、「中間層の人は誤った情報で反対しているので、私の映画を見ると賛成になってくれる」。外国人からも「日本側の意見を聞く機会がなかったので良かった」、「日本とアメリカの関係が、まさかペリーの捕鯨船からつながっているとは思わなかった」など、反響は大きい。
 映画制作時に「偶然が重なって何かに導かれたと感じた」という八木監督。それは今も続いている。ロンドン来訪時は、タイミング良く自然史博物館でクジラの特別展が開催されていたのに加え、上映と授賞式を挟んだ17日には反捕鯨デモもあり、まさに狙ったように鯨尽くしの3日間となった。この偶然には「ピンポイントで、すごい」と監督も笑うしかない。
 今年はさらに積極的に動く予定という。「配信されているうちに、世界中で暴れまわった方がいいと思うので」。上映会も随時受付中で、情熱とバイタリティーは尽きそうにない。3月からはyahoo!の新規コーナーで動画による情報発信が決定。市場や給食、科学者へのインタビューなど、八木監督が新たに撮った動画をアップしていく。
 古くから身近にあり、日本人の生活を支えてきた鯨。それが今、「世界の中の日本」を知る機会を与えてくれる。
【連絡先】TEL090・4120・4321
【MAIL】behindthecoveJAPAN@gmail.com
ビハインド・ザ・コーヴ事務局

写真上/八木監督=「ロンドン・フィルムメーカー国際映画祭」の授賞式で
下/日本での上映ポスター