音楽で教えているのは「生き方」
指揮棒と表情を子どもたちのひたむきな眼差しが追い、心に響く澄んだハーモニーが溢れ出す。そこには、強い信頼と深い愛情が垣間見える。
大切に作り育ててきた東京足立少年少女合唱団は、今年で50歳。5月の記念コンサート(8面に記事)を区切りに、団員の指導から退いて指導者を育成する顧問となった。
昭和41年に渕江小に音楽教師として赴任した当初、音楽を通して「生き方」を教えようにも、大人相手と勝手が違い、言葉で伝わらないことを痛感。学習の中心を「遊ぶこと」にしたところ、用がないのに音楽室に来る子が増えた。そのうち「先生の話を聞けなくなるから卒業したくない」という声が続出し、昭和44年、前身の渕江少年少女合唱団を創設した。
最初から平坦な道のりだったわけではない。合唱=遊び、と考える親に辞めさせられる子もいたが、機関誌を発行して親の意識改革を行った。「学校では教えないことを教えてくれる」――厳しいながらも豊かな学びの場が子どもたちの心を惹きつけ、地域を越えて入団者が増えていった。
一番大事にしてきたことは「言霊」という。「言葉の中に魂が入っている。それを言葉にすること」。様々な面白い「脱線話」をスパイスに、歌詞からどう感じ、どう思うかを想像しながら声を出すことを常に指導してきた。驚くほど真っ直ぐに歌詞が胸に入ってくる子どもたちの歌を聴けば、それがわかる。
昨年8月、がんを患い毎年恒例の合宿を欠席した際は、電話越しに聞いた歌に一言コメントした途端、みんな泣き出してしまったそうだ。子どもたちにそこまで慕われ、合唱団を居心地良くしているものは何なのか。
「当たり前にあるものへの感謝を教えている。『生』に送り仮名を付けるといくつも意味がある。生きる、生まれる、生かす、生かされる。『生かされる』には感謝の念が入っている」。生きていく根幹となる大切な考えだ。
合唱は皆の声と助け合って作り上げる。「歌っている時は体が楽器。世界に一つしかないそれを演奏できるのは、世界で一人だけだろ、と」。自分が唯一無二だと知ることは、他者の尊重にも繋がる。「教えたことが、いつ花が咲くかわからない。親になって子守唄を歌う時かもしれないね」。豊かでチャーミングな語り口と穏やかな笑顔が、未来の希望を約束している。
指揮棒と表情を子どもたちのひたむきな眼差しが追い、心に響く澄んだハーモニーが溢れ出す。そこには、強い信頼と深い愛情が垣間見える。
大切に作り育ててきた東京足立少年少女合唱団は、今年で50歳。5月の記念コンサート(8面に記事)を区切りに、団員の指導から退いて指導者を育成する顧問となった。
昭和41年に渕江小に音楽教師として赴任した当初、音楽を通して「生き方」を教えようにも、大人相手と勝手が違い、言葉で伝わらないことを痛感。学習の中心を「遊ぶこと」にしたところ、用がないのに音楽室に来る子が増えた。そのうち「先生の話を聞けなくなるから卒業したくない」という声が続出し、昭和44年、前身の渕江少年少女合唱団を創設した。
最初から平坦な道のりだったわけではない。合唱=遊び、と考える親に辞めさせられる子もいたが、機関誌を発行して親の意識改革を行った。「学校では教えないことを教えてくれる」――厳しいながらも豊かな学びの場が子どもたちの心を惹きつけ、地域を越えて入団者が増えていった。
一番大事にしてきたことは「言霊」という。「言葉の中に魂が入っている。それを言葉にすること」。様々な面白い「脱線話」をスパイスに、歌詞からどう感じ、どう思うかを想像しながら声を出すことを常に指導してきた。驚くほど真っ直ぐに歌詞が胸に入ってくる子どもたちの歌を聴けば、それがわかる。
昨年8月、がんを患い毎年恒例の合宿を欠席した際は、電話越しに聞いた歌に一言コメントした途端、みんな泣き出してしまったそうだ。子どもたちにそこまで慕われ、合唱団を居心地良くしているものは何なのか。
「当たり前にあるものへの感謝を教えている。『生』に送り仮名を付けるといくつも意味がある。生きる、生まれる、生かす、生かされる。『生かされる』には感謝の念が入っている」。生きていく根幹となる大切な考えだ。
合唱は皆の声と助け合って作り上げる。「歌っている時は体が楽器。世界に一つしかないそれを演奏できるのは、世界で一人だけだろ、と」。自分が唯一無二だと知ることは、他者の尊重にも繋がる。「教えたことが、いつ花が咲くかわからない。親になって子守唄を歌う時かもしれないね」。豊かでチャーミングな語り口と穏やかな笑顔が、未来の希望を約束している。