足立朝日

新旧が混在するから暮らしやすい 千住の未来考える「いえまち」トークイベント

掲載:2020年2月5日号
 住みたい街の上位にランキングするなど、最近人気の千住。若者が古民家をリノベーションした店が増えている一方で、風情ある佇まいの家が代替わりなどにより建て替えられ、まちの風景の変化が急速に進みつつある。
 千住の古い町並みを残したいと活動している団体「千住いえまち」が、昨年11月、千住最古の寺・安養院(鎌倉時代創建)で、「みんなで考えよう! 千住のみらい文化」第1弾としてトークイベントを開いた。
 前半は大丸松坂屋・未来定番研究所の今谷秀和所長が「大丸松坂屋が谷中の古民家を選んだ理由」と題して講演。
 同研究所は2017年に設立された大丸松坂屋百貨店の社長直轄の研究機関。「地域とともに発展・共生」をコンセプトに、あえて都心のビルから台東区谷中の古民家に移転した。
 今谷氏は未来に向けた販売戦略を説明。便利・安いでなく、独自の魅力を創出・追求し、好きになってもらわなければ勝てない。その未来の定番を考える空間として日本の伝統的な古民家は刺激と発想力をもたらし、クリエイターや文化人が集まるのに最適な場であると語った。
 「伝統的な建物は個人では守りきれない。大企業や外資に使われることで、残し守ることができるのではないか」と「保存という概念より、使うという概念へ転換」を提言。「コンクリがきれいなのは初めのうちだけで、もって50年、最大100年。100年築の古民家のほうが価値がある」。法隆寺が現存している事実などを踏まえ、木造建築の良さを正しく理解し伝えることも大切だとした。
 今谷氏から見た千住のまちは「地面で暮らす町という印象。いわゆるマンションやビル、ショッピングセンターだけのまちと違う」。「金太郎飴のようにどこを切っても同じ顔だらけのまち」にならないようにするには、魅力を地元に再認識してもらう方法を考える、インバウンド産業を受け入れ外国人から評価を受けることなどを提案した。
 千住いえまちが活動の中で、建物の所有者とつながりを持つ難しさに直面することについては、「正面から門を叩いて何も出ないことはあっても、人とのつながり、出会い、ネットワークなどで突破できることもある。アンテナが大事。飲み会から引き出すことも多い」とアドバイスがあった。
◆千住は暮らしやすい
 後半は千住に移り住んできた人を中心に、まちの魅力を発表。子連れだと高齢者が声をかけてくれる、個人商店で買い物をするとコミュニケーションが取れる、イベントを応援してくれる人が多い、来るものは拒まず心地よいなど、住みやすさが次々に挙げられた。
 千住の路地を全て歩いた鶴巻トシハルさん(2
019年6月「ピープル」掲載)は、子どもを路地で遊ばせていたところ、引きこもっていた高齢者が子どもの声を聞いて元気になって外に出られるようになったという経験談を発表。今谷氏は「役所はすぐ道を拡げて車と人を分離してしまうが、そうするとコミュニティも分離してしまう。防災を盾に路地が壊されていくが、本当にそれでいいのか」と問いかけた。
 安養院の住職も「江戸の最初の宿場町として当時の面影が奇跡的に残っているのが千住。古いものがなくならないように、心をひとつに大きな力になれば」とエール。
 定員の50人を超える参加者たちの熱意が満ちたイベントとなり、いえまちの舟橋左斗子氏が「千住暮らしを、東京の未来の定番にしていきたい」と目を輝かせて締めくくった。

写真/講演後、住人の若者たちが千住の良さを発表=安養院で