千住が若者に人気の理由の一つに、昔ながらの路地や建物が残る下町情緒がある。だが、老朽化や相続などにより、年々古い建物は姿を消し、街の風景は変わりつつある。
そんな中、知る人ぞ知る風情ある佇まいの「板垣邸」(千住5‐6)は、世代交代を乗り越え、外観はそのままに飲食店「和食板垣」として生まれ変わることになった。

◆洋館付きの昭和建築
板垣邸は学びピア21前の広い道路(通称「板垣通り」)と旧日光街道、旧水戸街道の交わる角にある。純和風建築と洋館が融合したクラシカルな建物は、ふと足を止めたくなる趣がある。
昭和13年に建てられた板垣家の住居で、木造2階建の入母屋造は、当時ならではのデザインがガラス窓や欄間など随所に施されている。
「板垣通り」(「板垣道路」ともいう)の由来も、区議会議員だった先々代当主によって区道路の一部として整備されたことにある。秋の祭りで千住5町会の神輿が一堂に会し、ここから渡御する様は壮観で、祭提灯に照らされた板垣邸は情感ある風景となっている。
一昨年、先代亡きあとの家を守ってきた夫人が他界。古い建築物が惜しまれつつ失われる例は全国でも多い。保存のための制度や助成が弱く、所有者が残したいと思っても、民間、特に個人の場合、困難な現実がある。
そこに名乗りを上げたのが、近所で事業を営んでいる近藤温思さん(36)だ。「実家のすぐ近くで、元々残したいと思っていた」。北千住駅から徒歩10分というテナントには厳しい立地を考え、個人での購入を決意。法事後の食事処がなくて困っているという声を聞き、「和食板垣」として再生するため、今年6月、リニューアル工事を始めた。
有形登録文化財にも申請。建物はかなり歪んでいて、基礎からの修復が必要だったという。内装はあえて天井の梁を見せ、欄間やガラス窓など残す部分を生かしつつスタイリッシュに改装。費用は予想以上で「新築よりかかっている」そうだ。
◆コミュニティの場に
それでも近藤さんを動かしたのは、建物を守りたいという思いだけではない。「賑わいが駅周辺だけで終わっていて、人の流れが作れていない。この辺りはシャッター街になってきている。ここに集える施設ができれば人の流れができるのでは」
町会の活性化にも役立てたいと考えている。昨年の台風19号では、避難所となった千寿本町小で町会の人たちが運営している様を目の当たりにし、コミュニティとしての重要性を実感。町会の高齢化と、住民同士の付き合いが希薄になっていることに危機感を覚えた。
「町として面白いことをやってるな、と興味を持ってもらって、携わってくれる人が増えたら。その入り口としての場所を提供したい」
中庭にコミュニティスペースを設け、祭りの時の休憩所にするほか、餅つき大会も計画。人々が交流できる場にしたいという。
「若い人たちに和食を再発見してもらえるような店に」とも。入口で靴を脱ぎ、畳の上のテーブルと椅子で気軽に食事できるようにする。京都の老舗「たん熊」の東京支店で修行した料理長(36)が、若い世代の感性で料理を提供。「自分たちの家のように使ってもらえれば」と近藤さん。
年内オープンの予定。地域に親しまれてきた建物が、新たな船出を迎える。
写真上/和洋が融合した板垣邸の外観
中/洋間は個室としてリニューアル
下/改装中の1階
そんな中、知る人ぞ知る風情ある佇まいの「板垣邸」(千住5‐6)は、世代交代を乗り越え、外観はそのままに飲食店「和食板垣」として生まれ変わることになった。

◆洋館付きの昭和建築
板垣邸は学びピア21前の広い道路(通称「板垣通り」)と旧日光街道、旧水戸街道の交わる角にある。純和風建築と洋館が融合したクラシカルな建物は、ふと足を止めたくなる趣がある。

「板垣通り」(「板垣道路」ともいう)の由来も、区議会議員だった先々代当主によって区道路の一部として整備されたことにある。秋の祭りで千住5町会の神輿が一堂に会し、ここから渡御する様は壮観で、祭提灯に照らされた板垣邸は情感ある風景となっている。
一昨年、先代亡きあとの家を守ってきた夫人が他界。古い建築物が惜しまれつつ失われる例は全国でも多い。保存のための制度や助成が弱く、所有者が残したいと思っても、民間、特に個人の場合、困難な現実がある。
そこに名乗りを上げたのが、近所で事業を営んでいる近藤温思さん(36)だ。「実家のすぐ近くで、元々残したいと思っていた」。北千住駅から徒歩10分というテナントには厳しい立地を考え、個人での購入を決意。法事後の食事処がなくて困っているという声を聞き、「和食板垣」として再生するため、今年6月、リニューアル工事を始めた。

◆コミュニティの場に
それでも近藤さんを動かしたのは、建物を守りたいという思いだけではない。「賑わいが駅周辺だけで終わっていて、人の流れが作れていない。この辺りはシャッター街になってきている。ここに集える施設ができれば人の流れができるのでは」
町会の活性化にも役立てたいと考えている。昨年の台風19号では、避難所となった千寿本町小で町会の人たちが運営している様を目の当たりにし、コミュニティとしての重要性を実感。町会の高齢化と、住民同士の付き合いが希薄になっていることに危機感を覚えた。

中庭にコミュニティスペースを設け、祭りの時の休憩所にするほか、餅つき大会も計画。人々が交流できる場にしたいという。
「若い人たちに和食を再発見してもらえるような店に」とも。入口で靴を脱ぎ、畳の上のテーブルと椅子で気軽に食事できるようにする。京都の老舗「たん熊」の東京支店で修行した料理長(36)が、若い世代の感性で料理を提供。「自分たちの家のように使ってもらえれば」と近藤さん。
年内オープンの予定。地域に親しまれてきた建物が、新たな船出を迎える。
写真上/和洋が融合した板垣邸の外観
中/洋間は個室としてリニューアル
下/改装中の1階