武家と農家の役割をあわせ持つ身分の「郷士」。かつては農地を開拓、幕末には武士のように幕府や地域を支え、文化面でも成熟した郷士が足立区に存在した。足立区郷土博物館(大谷田5‐20‐1)で2月23日(火・祝)まで開催されている文化遺産調査特別展「名家のかがやき―近郊郷士の美と文芸―」で、郷士の家に代々伝わる武具や芸術品から、その足跡を見ることができる。

これまで千住の商家の名品が公開されてきたが、郷士の家のものは今回が初のお披露目。特に甲冑は貴重な機会だ。
今回展示しているのは、地域の有力者だった千住掃部宿(現在の千住仲町)の石出家、小右衛門新田(現在の中央本町・梅島付近)の日比谷家の2家。区内の郷士は他に佐野家(佐野)、河内家(竹の塚)がある。
◆日比谷家(現在の梅島)
幕末・明治の当主・日比谷健次郎は北辰一刀流の剣術家でもあり、明治初期には日本初の和独辞書「和獨對譯字林」を制作・刊行している。
日比谷家の日比谷二朗さんによると、鎧は子どもの頃には10体以上あり、「悪いことをすると蔵に閉じ込められた。面頬(顔の部分の防具)がすごい怖かったのを覚えている」。大名家藩主級の優れた甲冑もあり、芸術品としてだけでなく、いざという時の実践用に床の間に飾っていたそうで、郷士の家ならではという。
蔵の壁には槍、薙刀、刺股が並んで掛けられていたほか、坂本龍馬のものと同じような6連発の鉄砲も。いとこが小さい頃に、刀箪笥に100本もの刀が収められているのを見たという話もある。
日比谷家があったのは、現在の中央本町(小右衛門町)のメガドンキがあるあたり。見取り図によると、三方に堀がめぐらされていた。敷地の中には道場もあり、村の守護と同時に幕府の重要な役割を担っていたことがうかがえる。
また、渕江領花又村(現花畑)の家塾主で漢学者の牧野隆幸の功績を記した拓本もあり、当時の寺子屋で英語や算数も教えられていたことが分かっている。「円周率3を使って円の面積を求める学習もしていて、足立区の学問のレベルは高かった」と二朗さんは話す。
◆土方歳三とも交流 日比谷健次郎を描いた小説「紅紫の館」
歴史時代小説作家・穂高健一氏による、健次郎を主役にした小説が完成した。権謀術数渦巻く幕末を、「隠密御用」として将軍のために働く傍ら、地域住民を守る健次郎の姿が、綿密な資料調査によって描かれている。
「隠密御用」の設定は根拠のないことではなく、多くの武具の所有、屋敷の堀などが幕府から認められていたことから推測。「SP(隠密の警護)的な仕事なら記録にも残さないことを考えると、ありうるのでは」(二朗さん)
新選組副長・土方歳三と健次郎の交流の記録もあり、小説では綾瀬の金子邸に滞在していた話や、時代の流れを感じさせる場面として印象的だ。
表紙の日比谷家伝来のひな人形は、貴重な江戸の古今雛と判明し、現在は国立博物館に保管されている。明治時代を描いた後編も発刊予定。
★「紅紫の館 郷士・日比谷健次郎の幕末」(四六判上製272頁・2000円税別/未知谷刊)。2名にプレゼント。
◆石出家(千住仲町)
江戸時代後期に狩野派の絵師・高田円乗の門人となった人物がいることが、近年の調査で判明。千住宿の文化の担い手となっていた。
幕末に千住宿総代を務め、名家として周辺と交流を持ち、埼玉県杉戸町の豪農・濱田家とは縁戚関係だった。石出家は掃部堤を造り、千住大橋の建設に尽力した石出掃部介吉胤を祖先に持つ。
《名家のかがやき》
【日時】2月23日(火・祝)までの午前9時~午後5時(入館は閉館30分前まで)、月曜休館
【場所】足立区郷土博物館(交通=亀有駅・綾瀬駅から東武バス「足立郷土博物館」「東淵江庭園」下車)
【料金】200円(中学生以下・70歳以上無料)
【問合せ】TEL3620・9393
写真上/「鉄黒漆塗亀甲鉄繋畳胴具足」(日比谷家伝来)
中/「雲龍図」高田円乗(足立郷土博物館蔵 石出家資料)
下/「西王母・東方朔図屏風」狩野探信守政(足立郷土博物館蔵 濱田家伝来資料)


今回展示しているのは、地域の有力者だった千住掃部宿(現在の千住仲町)の石出家、小右衛門新田(現在の中央本町・梅島付近)の日比谷家の2家。区内の郷士は他に佐野家(佐野)、河内家(竹の塚)がある。
◆日比谷家(現在の梅島)
幕末・明治の当主・日比谷健次郎は北辰一刀流の剣術家でもあり、明治初期には日本初の和独辞書「和獨對譯字林」を制作・刊行している。
日比谷家の日比谷二朗さんによると、鎧は子どもの頃には10体以上あり、「悪いことをすると蔵に閉じ込められた。面頬(顔の部分の防具)がすごい怖かったのを覚えている」。大名家藩主級の優れた甲冑もあり、芸術品としてだけでなく、いざという時の実践用に床の間に飾っていたそうで、郷士の家ならではという。
蔵の壁には槍、薙刀、刺股が並んで掛けられていたほか、坂本龍馬のものと同じような6連発の鉄砲も。いとこが小さい頃に、刀箪笥に100本もの刀が収められているのを見たという話もある。

また、渕江領花又村(現花畑)の家塾主で漢学者の牧野隆幸の功績を記した拓本もあり、当時の寺子屋で英語や算数も教えられていたことが分かっている。「円周率3を使って円の面積を求める学習もしていて、足立区の学問のレベルは高かった」と二朗さんは話す。
◆土方歳三とも交流 日比谷健次郎を描いた小説「紅紫の館」
歴史時代小説作家・穂高健一氏による、健次郎を主役にした小説が完成した。権謀術数渦巻く幕末を、「隠密御用」として将軍のために働く傍ら、地域住民を守る健次郎の姿が、綿密な資料調査によって描かれている。
「隠密御用」の設定は根拠のないことではなく、多くの武具の所有、屋敷の堀などが幕府から認められていたことから推測。「SP(隠密の警護)的な仕事なら記録にも残さないことを考えると、ありうるのでは」(二朗さん)
新選組副長・土方歳三と健次郎の交流の記録もあり、小説では綾瀬の金子邸に滞在していた話や、時代の流れを感じさせる場面として印象的だ。

★「紅紫の館 郷士・日比谷健次郎の幕末」(四六判上製272頁・2000円税別/未知谷刊)。2名にプレゼント。
◆石出家(千住仲町)
江戸時代後期に狩野派の絵師・高田円乗の門人となった人物がいることが、近年の調査で判明。千住宿の文化の担い手となっていた。
幕末に千住宿総代を務め、名家として周辺と交流を持ち、埼玉県杉戸町の豪農・濱田家とは縁戚関係だった。石出家は掃部堤を造り、千住大橋の建設に尽力した石出掃部介吉胤を祖先に持つ。
《名家のかがやき》
【日時】2月23日(火・祝)までの午前9時~午後5時(入館は閉館30分前まで)、月曜休館
【場所】足立区郷土博物館(交通=亀有駅・綾瀬駅から東武バス「足立郷土博物館」「東淵江庭園」下車)
【料金】200円(中学生以下・70歳以上無料)
【問合せ】TEL3620・9393
写真上/「鉄黒漆塗亀甲鉄繋畳胴具足」(日比谷家伝来)
中/「雲龍図」高田円乗(足立郷土博物館蔵 石出家資料)
下/「西王母・東方朔図屏風」狩野探信守政(足立郷土博物館蔵 濱田家伝来資料)