足立朝日

かかしのお客さんでほっこり賑わい 千住大門商店街

掲載:2021年6月5日号
 千住にある大門商店街。最近、店先で通行人を温かく見守り歓迎する、静かな「常連さん」たちの姿が話題だ。

 肉屋の店先で一休みしているおばあさん、カフェの入口でちょこんと腰かけた子ども、菓子店で孫を抱っこして店番をしているおばあさんも。老舗和菓子店のベンチでは、バッタリ会った近所のご婦人3人組が話に花を咲かせ――。今にも笑い声や話し声が聞こえてきそうなそんな姿が、商店街のあちこちにある。
 日常の風景に溶け込んでいる彼ら14人の正体は「かかし」。昨年4月から大門商店街の一員となり、本物の人間に負けない存在感を放って、通行人や買い物客を驚かせたり和ませたりしている。
 昨年春、千住大門商店街振興組合理事長である老舗和菓子製造販売の㈲喜田家(本社=千住緑町)の田口恵美子社長が、コロナ禍で人が減り商店街が淋しくなったことを憂い「にぎやかにしたい」と、菓子店・太子堂の田内千枝子さん(78)にかかしの購入を相談。「みんなの店先に置いてもらえたら」と自腹で手配したという。
●かかしの里から
 かかしは「天空の村・かかしの里」として知られる、徳島県三好市の山奥にある限界集落、東祖谷の名頃地区に発注した。
 集落の高齢女性たちが作った300体以上のかかしが、バス停で休憩していたり、農作業や井戸端会議をしていたりと、村のいたるところで日常生活を営む風景が名物となっている。その数は村の人口より多いという。
 造りは針金を芯に新聞紙を詰めた体に洋服を着せたシンプルなものだが、倒れないようにしっかりと重みがある。素朴な顔ながら、人と見紛う存在感があるのが不思議だ。
 かかしの里が製作したのは13体。3回の配送の最後に届いたうちの1体を見て、田内さんは驚いた。「理事長のそっくりさんだったんですよ」。添えられた手紙には、「せっかくなので、メディアで理事長の写真を見つけて似せて作りました」とあったという。
 ウェーブのかかった特徴的な髪型、やさしい口元などが毛糸で巧みに表現されていて、まさに田口理事長。かかしの里の真心が伝わる出来栄えだ。現在はスーパー「大春」向かいで、通行人を見守っている。
●大門生まれのかかしも
 大門商店街のかかし14体のうち、実はここで生まれたかかしが1体ある。
 造ったのは太子堂の田内さん。店向かいのプチテラス前に座っている、若い女性のかかしだ。買い物客に「若い子がいないね」と言われ、「それなら作りゃいいでしょ」と速実行。手先が器用で裁縫が得意な田内さんは、客に乞われて猫のぬいぐるみを作って自店で販売しているほど。かかしも見様見真似で、できてしまったとか。
 「大門道子ちゃん」と命名し、「唯一、着替えるかかし」と田内さん。最初は赤いミニスカートだったが、夏はブラウスに麦わら帽子、秋はデニム服に替えている。「夏に向けて、洋服を作ってやろうかな」と楽しんでいる。
 この大門オリジナルのかかし、お笑いコンビ・さまぁ~ずの三村マサカズがテレビ東京の番組「モヤモヤさまぁ~ず2」(5月9日放送)で描いたもの。そのため、大口を開けた笑顔のインパクトが強い、どことなく三村本人に似た顔になっている。番組内で田内さんは堂々とやりとりしていたが、実は相手が芸能人だとは気づかずに接していたのだそうだ。
 最近は遠方から見に来る人もいるとか。かかし効果について、同商店街理事でデリカ鮒忠店主の関谷栄さん(65)は、「最初は怖がる人もいたけど、慣れたら写真を撮っていく人も。お客さんとの会話のきっかけにもなっている。興味を持ってもらえるのはうれしい」と話す。とはいえ賛否両論あるようで、田口理事長は「3か月後の理事会でまた相談します」とのこと。見たい人はお早めに。

写真上/太子堂・田内さん。お手製の大門道子ちゃんと
中/田口理事長のそっくりかかしと田口理事長(左)
下/かかしが見守る商店街の風景



太子堂の仲良し親子


「いらっしゃい」とデリカ鮒忠


喜田家の常連(?)たちが日向ぼっこ


子どもがお出迎え/カフェ


お買得品を案内中/肉屋