足立朝日

この本

掲載:2021年8月5日号
★「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」町田そのこ著/新潮社/693円(税込)
 著者は、2016年「カメルーンの青い魚」で「第15回 女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。選考委員の三浦しをん氏と辻村深月氏から絶賛された。今年4月、同作品を含む5編の連作短編集として同書を上梓した。
 「カメルーンの青い魚」「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」「波間に浮かぶイエロー」「溺れるスイミー」「海になる」――各編の登場人物が、想像を超える大胆な仕掛けで関わり合いを持ち、彼ら彼女らのその後の人生が解き明かされていく。その筆力と構成があまりにも見事で、思わず唸らずにはいられない。
 社会の片隅でひっそりと生きる人々が、想いを寄せ合い、掛け合う言葉の一つひとつが温かさに溢れて心に染み入る。「人を想う」という行為は、これほどまでに切なく、愛おしいものなのか。コロナ禍で心身共に疲弊している私たちにとって、何よりも欲しい「ぬくもり」がここにある。
 5編に通じるものがあるとすれば、それは「生きやすさと生きにくさ」であろうか。「ここ」で生きることを決意した人々と、「ここ」では息ができずに離れていく人々。それぞれの場所で得る小さな幸せが、絶望から希望へと繋がり、「生きること」への賛歌となる。
 各編のタイトルが、なぜ「魚」「水」に関わるのか、読み進めるうちによく理解でき、人間の本質にも気づかされる。著者は昨年上梓した「52ヘルツのクジラたち」でも「本屋大賞」を受賞。今、最も注目したい作家の一人だ。