足立朝日

この本

掲載:2022年3月5日号
★「綴る女 評伝・宮尾登美子」林真理子著/中央公論新社/1,650円(税込)
 2014年12月30日、宮尾登美子がひっそりと逝った。「櫂」「一弦の琴」「鬼龍院花子の生涯」「序の舞」「天璋院篤姫」等々、時代に翻弄されながらもたくましく生き抜く女性を描き、小説の醍醐味を世に知らしめた作家である。
 出す本がことごとく大ベストセラーとなり、映画化・テレビドラマ化されたことは記憶に新しい。
 それらの著書を感慨深く読みふけり、宮尾と親交を結んだ作家・林真理子は、宮尾の評伝を書きたいと願ったが、いつしか「私を熱狂させたあの『宮尾ワールド』は、本当に存在していたのだろうか」と考えるようになった。
 「櫂」は、高知で芸妓娼妓紹介業を営んでいた宮尾の実父と、育ての母をモデルにした自叙伝的小説であるが、同作品をはじめとする宮尾ワールドのフィクションと事実とのつき合わせを通して、宮尾の小説の秘密を探るべく、林のすさまじい取材がスタートする。時には舌鋒鋭く、時には宮尾を称賛しつつ、宮尾の心の奥底に潜む感情と、語られなかった過去を徹底的に掘り起こすが、読者は「ここまで書いて許されるのか」という思いにとらわれるかもしれない。
 しかし、終盤には美しい着物姿でほほ笑む宮尾が行間から立ち上がり、林の筆の確かさに思わず唸ることになる。林の力量を堪能できる一冊だ。