足立朝日

千住のアンティーク洋館 大橋眼科 移築再建プロジェクト レトロ建築を残したい

掲載:2022年10月5日号
 商店街のアーケードに、突如現れる洋館。まるで昔の映画から抜け出たようなたたずまいと、凝ったクラシカルな造りに思わず足を止めて見入る人は多い。
 昨年春に閉院した北千住駅西口の「大橋眼科」の取り壊しが決定し、この建物を何とか残したいと「移築再建プロジェクト」が動き出した。


 大橋眼科は1917年(大正6年)に初代オーナーが建て、老朽化により1980年(昭和55年)、今の建物に建て替えられたもの。初代の洋館のイメージはそのまま、趣味人だった当時のオーナー・故鈴木英夫氏が都内を巡って収集した様々なアンティーク部材が組み込まれている。1960年(昭和35年)に道路工事で不要になった昭和通りのガス灯4本、浅草の映画館にあったレリーフなど、今では造れない歴史ある品々だ。
 プロジェクトを立ち上げたのは、足立区で生まれ育ち、健康食品通販事業の㈱ノルデステ(本社=関原3丁目)を営む阿部朋孝社長(37)だ。
 解体を知ったのは7月2日。「前を通る度に必ず見ていた建物。それがなくなることに衝撃を受けた」。既に隣地のマンション計画の一部になっていたことから、その日のうちにマンションを手がける三菱地所レジデンスに連絡。「どうにかしないと」の一心で思い切って移築再建を提案したところ、意外にも先方は前向きで、すぐに話が進んだ。「残したいという思いは一緒だった」と阿部さん。
 古い建物を残そうと活動している民間団体「千住いえまち」の舟橋左斗子さんを紹介され、次々に頼もしい協力者につながった。千住の空き家利活用のスペシャリストである佐野智啓さん(大工店 賽)、青木公隆さん(ARCO architects/古民家複合施設「せんつく」管理人)、宮島亨さん(V建築設計室)の5人でプロジェクトを立ち上げた。
●人々の思いと熱意で
 11月1日(火)からの建物解体に向け、10月末までに部材の回収・保存の工事を終えなければならないため、使える時間はわずか80日間。「不可能なはずなのに、次々に進んだ。関わっている方の熱意がすごい。ラッキーが重なった」。大橋眼科の建物には設計図がなく、撮影した写真に3D技術を活用して、内部のパーツを取り外す工事を進めている。
 現場での作業と同時に、クラウドファンディングも立ち上げた。期間は9月17日(土)~11月21日(月)。資材高騰により、移築費用は約1億2千万円。うち2千万円を目標に設定し、差額は阿部さんが自己資金で補填する。
 返礼品は、千住在住のイラストレータ―・なかだえりさんによる大橋眼科のイラストを使ったオリジナルグッズ等。
 なかださんは同医院と親交があり、自ら協力を申し出た。芸術好きだったオーナーと意気投合し、家に招かれたり、近所で立ち話をすることもあったそうだ。「よく、ほめてくださった。私が雑誌に描いた絵を模写してくれたことも。年齢を超えたお友だち」となかださん。オーナーが部材の謂れを説明してくれた貴重な記録が残っている。
 反響は区内外から寄せられている。昔近所に住んでいた人、千住を訪れた際に見たという人、また、たまたまプロジェクトを知って「素敵な建物だから」と支援してくれた人もいるそうだ。
 阿部さんは大橋眼科の魅力を「建物自体は築40年だが、明治からあるような部材の寄せ集めが一体となって調和している」と語る。移築再建後は、アンティーク洋館を生かして、千住名物になるような洋菓子を買える店にしたいという。
 現在、部材の保管場所と移築先も募集中。
【連絡先】info@ohashiganka.com
★クラウドファンディング、プロジェクトの詳細は右のQRコードから

写真上/とんがり屋根が目を引く大橋眼科
中/プロジェクトメンバーの(左から)佐野さん、阿部さん、青木さん
下/室内の一部