足立朝日

この本

掲載:2023年9月5日号
★「世界の終りのためのミステリ」(逸木裕著)星海社刊/1540円(税込)
 舞台は、人間の意識を半永久的に持続可能な人工身体にコピーしたヒューマノイド「カティス」が生まれた近未来。カティスの女性・ミチが目覚めると、世界から人類は消失していた。人間の頃の記憶がなく、孤独な時間を生き続けることに絶望しても、搭載された「安全機構」により自殺はできない。虚無の中で「人類消失の謎」を追う少年の姿をした「カティス」の阿見と巡り会い、永遠の時間を生きる意味と記憶を求めて共に旅を始める――。
 同書は4話仕立てで、各話に秘密めいた「カティス」が登場。第1話では、穏やかな日常の中で、マドカの過去が明かされていく過程がスリリングだ。第2話では、娘の墓を追い求める吉田の姿が痛ましく、墓は想像を絶する場所に存在することが判り、そのドラマティックさに息をのむ。第3話では、芸術家のレオとカウンセリングAIのハンスの心情が切なく、胸が詰まる。逸木の心の在り方が具現化されていることを感じる。第4話では、登場するカップルの伏線が、既に第1話に張られていたことに気付き、展開の見事さに驚く。
 逸木ならではの、色彩豊かな映像をイメージできる美しい描写の数々と、豊かな比喩が作品を昇華させ、イラストレーター・爽々による優しいタッチのイラストが花を添える。「未来に続く終わり」に希望が見え、「続編を読みたい!」という思いがこみ上げる。