足立朝日

自然を育む人工の川 荒川放水路 通水100年 船上から見る水の守り

掲載:2024年10月5日号
 現在の荒川は、洪水を防ぐために造られた「荒川放水路」。その人工の川に水が通されて、10月12日(土)で100年になるが、これまで一度も氾濫していない。各地で豪雨による洪水が多発している昨今、その役割を改めて見てみよう。

 荒川の全長は173㎞。江戸・明治時代には頻繁に下流域で洪水が発生し、明治43年の大洪水で甚大な被害が出たのを機に、明治44年から昭和5年まで20年をかけて、22㎞、幅500mの放水路が開削された。この時、北区の岩淵に設置した水門で流れを分け、隅田川と荒川放水路(現荒川)になった。
 綾瀬川の合流地点など各所に水門があり、大雨の際には水量をコントロール。調節池の彩湖(埼玉県戸田市)は、2019年の台風19号の際、過去最大の3500万トンの水を貯留した。
◆船上で記念講演会 
 荒川を見学する船上セミナーが、9月18日(水)に行われた。主催はNPO法人楽学の会(金子勝治代表理事)。「荒川放水路通水100周年記念~100年の未来を描くために~」と題し、あだち区民大学塾の特別講演会として3講座を開催。8月31日(土)、9月7日(土)には、学びピアで講演とシンポジウムを行った。
 船は国土交通省の災害対策支援船あらかわ号。定員20人程度だが、災害時には災害対策本部となり、ドローン操作や被災状況を水上から調査するなどの役割を担う。平時は視察や見学などに活用、昨年は水の研究をライフワークとしている天皇陛下が乗船したという。
 この日のコースは、小菅側にある足立リバーステーションから川をさかのぼり、岩淵緊急用船着場で下船。岩淵水門と荒川治水資料館アモア(北区)を見学した後、再び川を下って荒川ロックゲート(江東区)の通過を体験するというもの。荒川下流河川事務所の保全対策官・秋山賢さん、あらかわ学会の副理事長・三井元子さんが船内で解説した。
 参加者は抽選による25人で、中には「先祖の家が川の中にあったので、興味があった」という柳原在住の夫婦もいた。
◆赤と青の岩淵水門
 岩淵水門は赤と青の2つあり、現在使われているのは青水門。赤水門(旧岩淵水門)は放水路開削とともに建設されたが、老朽化などにより昭和57年に青水門に代替わりした。緑豊かな川岸と赤と青の水門が一望できる景観は、一見の価値があり、赤水門は今年、重要文化財に指定された。
 赤水門近くの川の中に立っている、水位記録標柱は必見。過去の水位が記録・表示されているが、2019年の台風19号時の水位が見上げる高さでギョッとする。戦後3番目(昭和33年以降最高)の7・17mだった。この台風では、京成本線・京成関屋~堀切菖蒲園間の荒川橋梁下約1・2mのまで水位が上がり、決壊が危ぶまれたほどだ。
 江東区にある荒川ロックゲート(2
005年完成)は、震災時に江東デルタ地帯などへの水上交通確保が期待される設備。最大3m以上水位差のある荒川と旧中川を行き来するための施設で、船のエレベーターのようなもの。2つのゲートの間に船が入ると、水位が調整されるのが壁面の目盛りで見えるので、技術を体感できる。
◆川の上から見る荒川 
 足立区を含む荒川下流は、実は海水と淡水が混じった汽水で、潮位の変化も大きい。ちなみに秋ヶ瀬取水堰(さいたま市)から上流は淡水。
 人工の放水路ではあるが、コンクリートの護岸ではなく、木材と自然石の木工沈床により自然に近い環境になっている。ボートの波によるダメージや外来植物などの問題もあるが、多くの生きものが生息している。
 川の上から眺める荒川と流域の景色は新鮮であり、また不思議と懐かしさも感じさせる。 
 いつもと違う角度から見ることで、暮らしの隣にある荒川放水路との新しい関わり方が見えてくる。
★「イノシシが泳いできた荒川」三井元子著/本の泉社刊/1800円(税込)
 足立の自然を残せと「子ども目線」で東奔西走する三井元子さんが、またまた面白い本を書いた。
 5年前の12月にTVが伝えていた「荒川の河川敷をイノシシが走っていた」というビッグニュース。その映像に小学6年生のマモル君になり切って驚き、父親と一緒にイノシシの生まれ故郷(?)探しで、荒川の源流がある秩父まで旅をするという話に仕立てたのがこの本。さすがである。
 マモルは、長瀞の「自然の博物館」や寄居の「川の博物館」などを見学しながら、徳川家康の河川付け替え事業や明治時代の荒川の洪水の被害などを勉強し、荒川放水路の建設の話にまでたどりつく。逃げ回ったあのイノシシの「気持ち」に寄り添って行動したマモルに、足立区や荒川区在住の人たちは拍手!。

写真上からA/岩淵水門の水位記録標柱。下から3番目が2019年台風19号の水位
B/災害本部にもなる「あらかわ号」
C/荒川ロックゲート。水位の調整が完了し、旧中川に向けてゲートが開く
D/鉄道路線が多い都内は橋も多い