足立朝日

この本

掲載:2024年12月5日号
★「彼女が探偵でなければ」逸木裕著/KADOKAWA刊/1980円(税込)
 第75回日本推理作家協会賞を受賞した連作ミステリ「五つの季節に探偵は」の続編となる本作で、「他人の皮を剥いで、その奥にいる〈人間〉を見たい」と願う探偵「みどり」が進化を遂げて帰ってきた!
 時計職人の父を亡くした少年が父の想いに気付く「時の子」、千里眼を持つという少年が陥った罠に驚愕する「縞馬のコード」、父を殺す計画をノートに綴る少年の母の秘密が暴かれる「陸橋の向こう側」、社会的弱者の家に描かれる悪意ある「×」の真実に迫る「太陽は引き裂かれて」、2児の母となったみどりの探偵であるがゆえの苦しみに触れた「探偵の子」など、どれもが精緻で切なくビターなミステリだ。
 「太陽は引き裂かれて」では、みどりの部下の要にスポットが当たる。世界史の中で多くの国により引き裂かれ、国を持てずに抑圧されてきたクルド人に寄り添う要の姿は、この問題に触れるために膨大な資料を紐解いた、著者の真摯な姿にも重なる。さらに「作品内の記述の誤りについては、すべて著者の責任による」と明記した「覚悟」がうかがえる。
 「探偵の子」では、仕事を突き詰めながら子育てをするみどりが抱える心の揺れに共感。すべてを飲み込み、静かに生きるみどりの父の「きっと大丈夫」の言葉が心に染み入る。
 熱い涙が流れる「人生の1冊」だ。