足立朝日

Vol.74-ルルドの奇跡

掲載:2008年10月5日号
「火の鳥」鳳凰編 
-三重野葵・渡部徹-

 手塚治虫生誕80周年を記念して、わらび座が新宿区と共同制作した「火の鳥」が、シアター1010に登場する。
  演出・栗山民也、脚本・齋藤雅文、音楽・甲斐正人、美術・妹尾河童の超豪華スタッフが結集し、あの大作をミュージカルとして甦らせる。
 主役の「我王」をダブルキャストで演じるのは、わらび座の若き担い手・三重野葵(みえのあおい=8・9・15日)。昨年、シアター1010で上演された「坊っちゃん!」で、主役を清々しく演じた姿が記憶に新しい。もうひとりの「我王」は、かつてわらび座に在籍し、現在、米国のポートランド太鼓で奏者を務める渡部徹(わたなべとおる=16日)。やはり、シアター1010で上演された「銀河鉄道の夜」で、誠実な車掌役を演じた。2人がそれぞれの「我王」に臨む。


 我王に対する仏師・茜丸に、戎本(えびすもと)みろ。我王を愛する速魚(はやめ)に、碓井涼子と佐藤明日香。茜丸を慕うブチに末武あすなろ。吉備真備に中山城治。
 舞台は8世紀の奈良時代。朝廷の命令で鳳凰を探し求める茜丸は、我王に利き腕を切られて自暴自棄になるが、ブチとの巡り逢いで再生する。我王もまた、速魚の無償の愛を受け、人間らしい心を取り戻し始めたが、手下の嘘を信じ、速魚を自ら殺める。荒れ狂う我王は、良弁上人により仏師としての道を開かれる。やがて、我王は吉備真備の命を受け、茜丸と東大寺の鬼甍(おにがわら)制作を競うことになるが……。
 舞台というものは、通常、主役・脇役が分かれがちであるが、「火の鳥」に関しては「出演者全員が主役」という感がある。個々の最大限の力が引き出されると、舞台をここまで高められることが実証された。舞台上には「火の鳥」は登場しないが、あたかも頭上で息づいているように感じられるのは、演出と音楽と声のハーモニーが成せる技か。
        

            渡部徹           三重野葵
 上演日時=11月8日(土)・9日(日)・15日(土)・16日(日)いずれも午後2時開演。チケットtel048・286・8730わらび座。