足立朝日

Vol.84-「白石加代子」源氏物語

掲載:2009年8月5日号
寂聴の現代語訳に原文の力を加味

 「源氏物語」の現代語訳はいくつもあるが、瀬戸内寂聴のものほど庶民に親しまれ、源氏の愛の世界を彷彿とさせるものはない。その寂聴源氏に演出家・鴨下信一が更に手を加え、希代の俳優・白石加代子と取り組む「源氏物語」が、いよいよシアター1010で上演される。
 白石による朗読形態のひとり芝居「百物語」の怖さ面白さは既に世の知るところであるが、白石の「源氏物語」もまた、観客を日常から遊離させ、華麗な夢の世界へと誘(いざな)うことで大きな反響を呼んでいる。
 千住の地で繰り広げられる平安絵巻は「須磨、明石と末摘花(すえつむはな)」。父である桐壺帝の死により、光源氏の運命も変わって須磨へ落ちるが、やがて明石に移り、明石の上と愛を交わす。末摘花は「源氏物語」に登場する女性の中で最も不美人に書かれているが、光源氏をひたすら想い、一途に待ち続ける心は誰よりも強い。
 そんな末摘花を魅力的で愛おしいと感じる白石が、台本の上に横たわる言葉に古典原文を交えて立ち上げる。白石は語る。
 「一度足を踏み入れると、足抜けできない世界。初めは光源氏の生き方に同調できない部分がありましたが、鴨下さんの源氏物語に対する深い知識や講釈を頂き、『須磨、明石』を演じるころには、光源氏に対して同情や母性愛をも感じるようになりました。人間は貴賤上下の区別なく、運命というものに翻弄され、それを乗り越えた時に始まる人生もあるということを、平安の世の人が教えてくれているのでしょうか。全てを知り尽くした寂聴さんによる現代語訳と、源氏物語に想いを馳せる鴨下さんの見事な台本が、私を後押ししてくれています。皆様どうぞお楽しみ下さい」
 寂聴・鴨下・白石、3人の感性が絡み合う「源氏物語」は、秋の一日のみ上演される。
 日時=9月12日(土)午後4時開演。チケットTEL5244・1011。