足立朝日

Vol.72-空と星と風の物語 -毬谷 友子-

掲載:2008年7月5日号
 長年、「星の王子さま」の物語を心に温めてきた劇作家の別役実が、開館5周年を迎えたシアター1010のために、音楽劇「夜と星と風の物語~星の王子さまより~」を書き下ろした。演出は、生粋の舞台人・藤原新平。加えて、舞台美術の巨匠・朝倉摂、「海の上のピアニスト」で熱烈なファンを増やした若手作曲家・ピアニストの稲本響(ひびき)らの夢の作品が、この足立区で花開く。

 「王子さま」には毬谷友子。別役に請われての挑戦だが、長い艶やかな黒髪をショートにした毬谷は、既に「星の王子さま」の純真な魅力を醸し出している。毬谷は涼やかな目線で懐古する。「子どものころ、父が初めて買ってくれた本が、サンテグジュペリの『星の王子さま』初版本。その当時は意味が解らなかったけれど、年齢と共に、書かれている言葉の一つひとつが深く美しく、まるで聖書のような普遍性を感じて、とても大切で特別な本になりました。
生粋の舞台人と音楽のコラボ
☆撮影=大原狩行
 父とは勿論、戦後の日本を代表する劇作家・故矢代静一。戯曲一筋に生きた矢代の、演劇の行く末に対する愁いを理解する毬谷は、誰よりもこの巨匠たちとの舞台創りを喜ぶ。
 「星の王子さま」の名場面、「肝心なことは目に見えない。物事は心でしか見ることができない」と語るキツネも、この作品には登場しないが、キツネが示唆する「愛」の大切さが根底に流れ、別役ワールドの魅力に引き込まれる。
 今回、毬谷は「稲本との巡り逢い」という宝物を得た。劇中で、王子がバラの花を想うバラードを歌うが、それは稲本が毬谷に宛てて作った曲。父の作品で、彼女がライフワークとしているひとり芝居「弥々」の曲を始め、稲本が毬谷に贈る曲がこれからも数多く生まれるに違いない。「かつて子どもだった沢山の大人が、忘れかけていた大切なことを思い出し、大人も子どもも生きる上でのお土産を持ち帰れるような舞台を務めたい」と毬谷。父を慕い、父に愛され、その胸に抱かれたころの幼い自分に王子を重ね、毬谷は透明な目線と心で舞台に臨むことだろう。 
  日時=7月26日(土)~8月3日(日)。S席6千円、A席4千円、千住席1010円、区民割引3千円、1010フレンズ会員/小中学生2千円。陛5244・1011。