足立朝日

Vol.48-動物園物語 市川段治郎&貴水博之

掲載:2006年12月20日号
 シアター1010舞台上の小舞台(ミニ11)に、歌舞伎俳優・市川段治郎とミュージシャン・貴水博之が登場する。作品は「動物園物語」(エドワード・オールビー作、青井陽治・訳/演出、朝倉摂・美術/衣装)。
 社会から忘れ去られ、孤独に苛まれるジェリーと、ごく普通の平穏な生活を送るピーターが、ニューヨークのセントラル・パークで出会う。動物園から公園へ来た理由をしゃべり続けるジェリーに、ピーターは苛立ちを覚えるが、やがてジェリーの話に引き込まれていく。それが、自分をどのような結末に導くかを予想もせずに……。
初のストレートプレイに挑戦
 ラスト・シーンはショッキングであるが、そのプロセスでの2人の会話には、青井のウイットに富む翻訳力が、余すところなく発揮される。暗い世相の現在に、あえてこの作品に挑戦する思いを青井は語る。「50年前の作品ではあるが、今どこにでもあり得る内容だと改めて感じた。舞台に置かれるベンチは、全ての平和と所有のシンボル。それを巡り、同世代の人間の価      段治郎(左)&貴水
値観の違いが生み出す状況を表現してみたかった」
 ピーターを演じる段治郎は、「10年前、歌舞伎以外で自分が出来るものを模索していた時に、ストレートプレイの話題が。この作品は、まさにその時のもの。運命的な出会いを感じる。当時は、非現実的な内容という印象が強かったが、この話を頂いた時には、ジェリーのような人間に巻き込まれるピーターのような人間もいると考えられるようになった。2人芝居のインパクトが強くて、夜、目を閉じると、貴水君の顔が浮かんでしまう」と笑わせる余裕。04年3月のスーパー歌舞伎で、市川猿之助の代役を務めた若手実力役者の貫禄。
 ジェリー役の貴水は「青井さんの作品、ラヴ・レター(朗読劇)に出演経験があり、今回もとても良いご縁を頂いた。歌うことも、舞台で演じることも、人に影響を与えることは同じ。今は、人とコミュニケーションを取ることが大変な世の中。そこから目を背けずに関わろうとすると、こういうこともあり得ると思う。ジェリーは全体的に長セリフだけれど、入り込んでしまうと一瞬のこと」と積極的に臨む。ロック界をリードし続ける貴水だが、ダンス&ソング「クラリモンド」では、死霊の女に純愛を捧げる僧侶を演じ、役者として既に開花。ジェリー役での飛躍が期待される。
  上演期間=1月8日(月)~21日(日)。6000円。フレンズ会員5400円。チケット℡5244・1011。